場面緘黙症と自閉症スペクトラムという障害がある杉之原みずきさん(左)と母の千里さん(画像提供=千里さん、以下同)
この記事の写真をすべて見る

 他人の前では動くことも、しゃべることもできなくなってしまう「場面緘黙(かんもく)症」という障害があるパティシエの少女を取材したのは2021年の年の瀬のこと。店舗兼工房を立ち上げ、お菓子の販売を始めた母は、娘が障害を克服するのではなく「ハンディと共に生きていく道」を必死に模索していた。あれから約3年。母と子は、その後をどう歩んでいるのか。

【写真】注文が殺到する「みいちゃん」のケーキはこちら

*  *  *

 滋賀県近江八幡市に住む杉之原みずきさん(17)。特別支援学校2年生の彼女は、家の中では家族と普通に会話ができるが、他人の前など不安を感じる場に立つと、動くことも声を出すこともできなくなってしまう「場面緘黙症」と、自閉症スペクトラムという複雑な障害の当事者だ。

 診断されたのは小学校入学前。母の千里さんいわく、兄と一緒なら小学校に登校はできるが、家族と離れた教室では「固まってしまう」状態になる。じっとだまって机に座ったままで、トイレにも行けず給食も食べられなかった。

「何もできひん(できない)子」

 無邪気さゆえだが、子どもたちから、そんな風に言われたこともあった。

 次第に学校に行かなくなり、家に閉じこもるようになったみずきさんだが、千里さんがスマートフォンを買い与えると、料理作りのアプリにハマり、お菓子作りに没頭するようになった。

 小学生にして、しかも独学で、家族も驚くほどの独創性のあるおいしいケーキやお菓子を次々に作る。SNSに写真を載せると、たちまち評判になった。

みずきさんが手作りしたケーキ

 障害が治らないだろうか。そんな思いにとらわれ、泣いてばかりの時期があった千里さん。お菓子作りの才能に、ひと筋の「光」を感じ、2020年1月に「みいちゃんのお菓子工房」をプレオープン。地元のテレビ番組などで紹介されたこともあり、開店の日には行列ができたり、ホールケーキの予約がひっきりなしに入るほど、大きな反響を呼んだ。

 障害を克服するのではなく、「障害とともに生きていく道」を探る。そのころには、千里さんの思いも大きく変わっていた。みずきさんが義務教育を終えた昨年春に、満を持して店をグランドオープンさせた。

 だが……。

著者プロフィールを見る
國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

國府田英之の記事一覧はこちら
次のページ
母が目を疑ったみずきさんの行動とは…