カタダマチコさん @machiko798:幼少期から神谷書写技能研究所で学ぶ。現在は独立。美しい中にも特徴ある字体にファンも多い。「字は嗜好品と同じで、合う・合わないがある」という(写真:SNSから)

 Xのプロフィールに「どこにでも売ってるボールペンで字を書くひと。」とある通り、使うのは100円から数百円程度で購入できる一般的なペン。ZEBRAのマッキー、PILOTのFRIXION BALL、PentelのENERGELなど、ペンケースを漁れば出てくるようなごくごく普通のペンを使って、まるで筆耕係がしたためた筆文字のような美しい文字を披露している。

 私が初めてカタダさんの投稿を目にしたのは去年2月だったろうか。夜遅く、原稿書きに集中できずにXを眺めていると、「残業」と書いたカタダさんの投稿が流れてきた。ネイビー色のインクにラメが入ったボールペンで書かれたなめらかだけれども力強い線を見て、「残業も悪くないなぁ」とぼんやり思ったことを覚えている。

 ゆるい投稿スタイルも人気のひとつ。「まだ終わらんらしい。」という一文を添えて、「夏の終わり」と書いた画像を投稿したり、「貝に弱みでも握られてんのか。」というコメントと共に「贔屓」という単語をつづる動画を見せてくれたり。

「字を見てほしいと思って投稿しているので、あえて何にも刺さらない、どうでもいいことを書くようにしています。あとは見る人が自由に想像してくれたら」(カタダさん)

 小学校低学年から高校卒業まで書道教室に通ったが、親に言われて始めた習い事で全く好きではなかった。だが社会人になり、字から離れる中で、心残りを感じるようになったという。

「人より得意なものがあるとすれば、字を書くこと。離れている間、中途半端だったな、このままでいいのかなとずっと引っかかりを感じていました。やっぱりもっと字を書こうと思って、また教室に通い始めました」

フォロワー増え著書も

 SNSに投稿を始めたのは2015年ごろ。字の練習、覚え書きのようなつもりで書いた文字を載せているうち、目に留める人が少しずつ増えた。17年にはインスタグラムのフォロワーが3万人ほどになり、著書『好かれる大人のほめられ文字LESSON』(朝日新聞出版)も出版した。今はペン字教室なども主宰する。カタダさんは言う。

「SNSに投稿したことで字を使った活動が広がったし、仲間もできました。私の原点のようなものです。私は書道家ではないので、日常でパッと書いた文字が『いいな』と思ってもらえるのが一番うれしい。字を書くことにはゴールがなくて、うまく書けたと思っても半年後に振り返ると『なんでこんな書き方しちゃったんだろう』と感じることがあります。でも、それが字のおもしろさです」

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