た ぬさん @thumb_tani:今年6月、作品を集めた写真集を発売。これまでに作ったコインタワーやバランスアートは400種類以上(写真:本人提供)
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 誰もが自由に情報を発信できる時代。SNSを眺めていると、時として思いもよらない「芸」に出合うことも増えた。あなたも「推し」を見つけてみては?AERA2024年10月7日号より。

【写真】「硬貨を複雑に積み上げたコインタワー」はこちら

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 1年ほど前のある日、X(旧:Twitter)で流れてきた画像を見て、目が点になった。下が細く、上が太くなっているらせん状のコインタワー。上部には、微妙なバランスでエリザベス2世が描かれた外国硬貨と1円玉がタテに置かれている。

「た ぬ」さんは10年ほど前から、硬貨を複雑に積み上げたコインタワーや、身近にあるものを使ったバランスアートに取り組み、写真をXに投稿してきた。5千枚もの1円玉を組み上げた大作から、スティックキャンディー「Chupa Chups」を2本、くの字形に積んだシンプルなものまで、様々な作品がある。どれも重力を無視しているかのような、あるいは何か支柱を使っているのではないかと疑いたくなるような不思議な構造だ。

普段は普通の会社員

 きっかけは10年ほど前。財布にあった10円玉と1円玉を何の気なしに縦に積んだところ、うまく立ったことだという。

「本当に何げなくやってみると、2枚縦に積むことができたんです。おもしろいな、他のものでもできるかなと思っていろいろ試すようになりました」

 普段は「ごく普通の」会社員。休日に手を動かすことがいい気分転換になると話す。5千枚の1円玉を使った作品は数日間に分け、計11時間ほどかけた。SNS上で「バズった」ことも何度もある。現代アートだという声も多いが、た ぬさんは言う。

「自分のなかでは作品とかアートって意識はなくて、遊びなんです。完成した後、『無駄な時間を使ったなぁ』と感じることも多い。それでも、多くの人が見て反応してくれるのはうれしいですし、何となくおもしろいと思ってもらえたらいいですね」

 小学生のころから乱筆だった記者にとって手で字を書くのはもはや苦痛だが、美しい書き文字の気持ちよさを教えてくれたのが「カタダマチコ」さんだ。インスタグラムやXで、手書き文字の画像や、ペンを動かす様子を映した動画を投稿している。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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