さらに、鉄サプリメントの使用率は、鉄欠乏症の女性では年齢に応じて22% から 35% で、男性では12%から 18%  となっており、鉄欠乏症の成人の間で鉄サプリメントの使用がまれであることも明らかになったのです。多くの人が気づかないうちに、鉄欠乏症のまま生活している可能性があることになります。

健康診断の検査項目ではわからない

 この研究の著者の一人であるレオ氏は、「絶対的鉄欠乏症と機能的鉄欠乏症を区別することが重要だ」とインタビュー(※3) の中で指摘しています。「体内の鉄貯蔵量の大幅な減少または欠乏によって生じる絶対的鉄欠乏症の有病率は、閉経前の女性に加え、消化管からの不明な出血と不十分な摂取、鉄の吸収を妨げる慢性疾患等の影響により高齢女性と男性に多く見られます。その一方で、米国で非常に一般的になっている肥満、糖尿病、腎臓病などの病気は、機能的鉄欠乏症を引き起こす可能性があり、機能的鉄欠乏症は、あらゆる年齢層や性別で一般的に見られている」と述べているのです。

 残念なことに、鉄欠乏症かどうかは、一般的に日本の健康診断で実施されている全血球数の採血項目だけではわかりません。今回ご紹介した調査でも、絶対的鉄欠乏は、トランスフェリン飽和に関係なく、血清フェリチンが 30 ng/mL 未満として定義され、機能性鉄欠乏症は、血清フェリチンが 30 ng/mL 以上で、トランスフェリン飽和度が 20% 未満であると定義されていたように、血清フェリチンを測定しないといけません。

 私自身、健康診断で貧血だとは指摘されないものの、献血基準には達しない状態が続いたため、かかりつけの医師に相談し、フェリチン値を測定してもらったことがあります。その結果、フェリチン値が低かったことがわかり、鉄を多く含む赤身肉や魚を意識して摂取するようになりました。

 たかが鉄欠乏、されど鉄欠乏。日々意識してコツコツと鉄を多く含む食品を摂取し、鉄欠乏がさらに深刻にならないようにすることがやはり大切なのだと、最新の研究結果は、改めてそう認識するきっかけをくれたと感じています。

【参照URL】 

(※1)https://www.nhk.jp/p/torisetsu-show/ts/J6MX7VP885/blog/bl/pnR8azdZNB/bp/p6v3yQNZrm/

 (※2)https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/article-abstract/2823909

 (※3)https://www.cnn.com/2024/09/27/health/iron-deficiency-us-adults-study-wellness/index.html

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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