SBI証券 高村正人社長(撮影/写真映像部・和仁貢介)

300万円がボーダー

 下げをチャンスと見て機敏に動いた投資家が多かった、と。証券業界で言われていることだが、預かり資産が300万円を超えると顧客はNISAの枠を飛び出し、個別株の信用取引やFXなどの「違う投資」に手を出す傾向があるという。

 高村社長もこの説にうなずきながら、「年360万円まで投資できる新NISA枠以外に資金を振り向けざるを得なくなる実態はあると思う」と話す。

「新NISAでは手数料無料、非課税でしっかり利益を上げていただきたい。これは本心です」

 手数料ゼロで集めた圧倒的多数の顧客集団から「じわじわ染み出す」形で、新NISAに飽き足らない層が他の投資に手を広げていく。そこでSBI証券は薄利多売ながら収益を上げている。前述した国内株式の売買手数料無料化(23年9月)の後の決算。営業収益(売上高)および営業利益(本業の利益を示す)はともに過去最高だった。

 SBI証券は顧客獲得の「隠し玉」を用意しているという。「これまであまり行ってこなかったマス向けの広告(テレビCM含む)で、我々のメッセージを伝えます。強調したいことは『ゼロ』。手数料ゼロでも健全なビジネスをやって、これからもゼロを続けます。広告を機に『SBI証券って何だろう?』と興味を持っていただき、ネットで検索したら『どうやらナンバーワン証券らしい』という流れを狙っています。ゼロを通じて1位のSBI証券を連想するブランディングができればいい」

 ここで詳しく書けないのがもどかしい。高村社長からヒントをほんの少しだけ聞かせてもらったとき「えっ!」と声が出たことだけはお伝えしておく。

iDeCoも負けない

 12月に発表される税制改正大綱では、iDeCoのさらなる制度変更が予想されている。正直、iDeCoはNISAに比べ人気がないが。

「うちはiDeCoにめちゃめちゃ力を入れていますよ!」

 高村社長が身を乗り出した。

「残高は今年5月に1.5兆円を超えました。口座数は第2四半期中に100万口座突破の見込み。圧倒的1位です」(笑顔)

「今から20年以上前、iDeCoが『日本版401k』と呼ばれていた01年に加入者の資産や取引状況を記録するレコードキーピング会社(SBIベネフィット・システムズ)を立ち上げました。iDeCoは掛け金の全額が所得控除され、資産形成期の税金面のメリットがNISAより大きいので普及させたく、SBIグループ全体で取り組んできました。iDeCoでも当然、ナンバーワンを続けます」

 やはり1位じゃなきゃダメだ。(経済ジャーナリスト・大場宏明、編集部・中島晶子)

AERA 2024年10月7日号

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。「AERA」とアエラ増刊「AERA Money」の編集担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などの経済関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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