目隠しをして詰将棋に挑戦し、他の登壇者より先に挙手する藤井聡太七段(中央。当時)=2019年3月17日、大阪市中央区
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 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年10月7日号より。

【貴重写真】和服じゃない!スマホ片手にデニム姿の藤井聡太さん

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「将棋の天才とは誰か?」

 もしもそんなテーマで熱心な将棋愛好者が集まって語り始めたら、話は尽きることがないだろう。将棋400年のきらびやかな天才たちの名を並べ始めたら収拾がつかなくなるのでここでは割愛するが、現在、藤井聡太七冠の名を挙げることについては、どこからも異論は出ないだろう。

 ではその藤井自身は「天才」と呼ばれることについてどう思っているのか。

「私自身はそうは思っていないので。何というか、不思議な気持ちです」(朝日新聞2023年12月31日付朝刊)

 謙虚な藤井らしい回答だ。そして「天才と聞いて何が思い浮かぶか」という問いには、次のように答えていた。

「詰将棋作家の方たちです」「若島正さんとか田島秀男さんとか、どうしてこんな作品が作れるのかなと思います」

 現代を代表する両作家の名を聞いて「さすが藤井七冠」と納得されるのは、詰将棋を愛してやまない方々だろう。

 もし詰将棋創作の才能まで含めるのであれば、江戸時代の伊藤宗看(七世名人)、伊藤看寿(贈名人)の兄弟も大天才のリストには必ず名を連ねる。両者が遺した詰将棋作品集「将棋無双」「将棋図巧」は古来「神品」とも呼ばれ、現代でもなお高く評価され続けている。その魅力に触れたい方は若島による最新の論考集『詰将棋の誕生:『詰むや詰まざるや』を読み解く』をご覧いただきたい。

 藤井は詰将棋を速く正確に解く能力も世界一だ。そして創作においても幼い頃から才能を示してきた。そんな藤井を見て「看寿の生まれ変わりではないか?」と思ったのは、筆者だけではないだろう。藤井は現在、タイトル戦などで多忙を極める。そうした中で「いずれ後世にまで伝えられるような詰将棋作品集を遺してもらいたい」と願うのは、大天才に多くを求めすぎだろうか。(ライター・松本博文)

AERA 2024年10月7日号