フィルムカメラ「PENTAX 17」(税込み8万8千円)の発売を喜ぶリコーイメージングの開発チームメンバー(写真:リコーイメージング提供)
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 Z世代のレトロブームでフィルムカメラが再評価されている。息を吹き返したアナログ技術の継承の現場を訪ねた。AERA 2024年10月7日号より。

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リコーイメージング(東京都大田区)が今年7月に発売した「PENTAX 17」(以下、イチナナ)。ペンタックスブランドとして21年ぶりとなるフィルムカメラの新商品だ。過去モデルの復刻ではなく、令和の時代にあえてアナログの新製品開発を手掛けた背景にはどんな思いが込められているのか。

社内の企画会議。開発統括部第1推進部の鈴木タケオさん(54)が100枚以上のパワーポイントを用いて熱弁をふるったのは「フィルムカメラ」の新製品開発の提案だった。持ち時間を大幅に超える1時間半のプレゼンを終えると、会議室は水を打ったようになった。4年前のシーンを鈴木さんはこう振り返る。

「突拍子もない提案で、みんな固まっていました。やっちゃったな、という感じでしたね」

無理もなかった。フィルムカメラはデジタルカメラの普及とともに2010年頃までに急激に市場から姿を消した。企画会議は主力製品である「デジタルカメラのアイデアを出し合う場」と誰もが考えている。だが、会議で受け流されたように思われたフィルムカメラの提案は、その後、社内の技術者の間で話題になった。鈴木さんは同僚から質問攻めにあう。

「高価なフィルムを買う人がいるのか」「現像はどうするのか」「そもそもユーザーは存在するのか」

鈴木さんは会議のプレゼンのためにリサーチしていた内容をあらためて説明した。フィルムの購入費以外にも、現像・プリント代などにコストがかかるにもかかわらず、Z世代を中心に根強いファンがいること。さらには、SNSを日常的に使いこなす40代前半までの幅広い世代のニーズも見込めること。フィルム販売店や中古カメラ店を訪ね歩き、こうした情報に接していた鈴木さんには「市場に変化が起きている」という確信があった。

同僚の間で「いけるんじゃないか」「面白そう」という声が少しずつ広がっていった。有志メンバーであらためて市場調査に乗り出すと、若い世代が感じているフィルムカメラの魅力は一つではないことが浮かんだ。味わいのある独特な色合い。現像するまで結果がわからないワクワク感。昔ながらの機材に触れる喜び。これらが混然となって醸す「アナログ感」が新鮮に感じられているようだった。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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