鶴谷:泣く泣く削ってしまうセリフたちを、そのまま生かすことはできないけれど、作品のなかに印象として散りばめたいなと思っているんです。やりすぎるとネタバレになってしまうので、情報の取捨選択がまた難しいんですけど。
辻村:絶妙だと思います。
鶴谷:そう言っていただけると、ほっとします。その70点というのを、男性はあんまり低いと思っていないらしい、というのが本作を描くにあたって驚いたことの一つでした。
なかなか架のキャラクターがつかめなくて悩んでいた時、辻村さんから「お父さんが亡くなったことは彼にとって大きな出来事だと思います」と言われて少し手掛かりをもらえました。それは、ずっとお父さんの影に隠れて呑気に生きてきた彼が、自分の人生を生きなくてはならなくなった瞬間で、結婚に対する想いもきっと変わったのだろうなと。
でも、それでもあと一歩が足りなくて、広告業界で働く何人かの男性に話を聞かせてもらったんですが、驚きました。どうやら男性は、70点という評価をあんまり低いと思っていないらしいんですよね。悪びれずに「リアルな数字だよね」っていう人もいて。
辻村:そうなんです。なんなら、高得点だとすら思っている。
鶴谷:言われてみれば、この人は百点満点だと全幅の信頼をおいて結婚する人のほうが少ないのかもしれないな、と思いました。男性にとっては「それぐらいだったら結婚できるな」という程度のことでしかないんだけれど、女性からすると、減点されたように感じてしまう。それが婚活マジックなのでしょうね。
辻村:女性が高得点だと捉えるのはおそらく80点からだと思います。その80点でもない、ということは引かれた10点分、しっくりきていないことがあるのだろうと疑ってしまう。婚活には、誰かを選ぶと同時に選ばれるために努力しなければならないという感覚も常にあるし、その過程で、これまで生きてきた経験や価値観など、アイデンティティにつながるあらゆるものがあぶりだされ、その是非を突き付けられるのはしんどいですよね。