辻村深月さん(左)と鶴谷香央理さん(撮影/朝日新聞出版写真映像部・松永卓也)
辻村深月さん(左)と鶴谷香央理さん(撮影/朝日新聞出版写真映像部・松永卓也)
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 累計100万部を突破した辻村深月さんによる『傲慢と善良』。藤ヶ谷太輔さんと奈緒さんのW主演での映画公開を9月27日に控える話題作です。多くの読者から「人生で一番刺さった」との声が届いた名作が、『メタモルフォーゼの縁側』の作者・鶴谷香央理さんによりコミカライズ! 9月13日の単行本第1巻発売を記念して、巻末特別対談が実現しました。お互いにファンであったという相思相愛のおふたりが、作品について自由に語ってくださいました。今回は特別に、単行本に収録されていないお話も含めて、その一部を抜粋・再編して公開します。

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小説とコミックの違いと魅力

辻村:鶴谷さんは、読者の記憶を喚起させるような描写をしますよね。たとえば本屋さんを描くとしたら、読んでいる人がそれぞれ、自分が通ったことのある思い出の本屋さんに自然と立ち戻れるような、余白を残した描写をしてくれる。

 私も、キャラクターについて描写するときは、外見的な特徴を書きすぎないようにしているんです。都会的とか気が強そうとか、印象を言葉にはするけれど、読んだ人がそれぞれ「大学時代のサークルにいたあいつみたいな奴か」と思い起こせるようにしたいから。でもそれって、「こういうイメージを抱いてほしい」という方向に言葉を尽くしているということでもあるのかもしれない。

 おもしろいですね。とくにコミカライズでは、互いに見せたい情景は同じであるはずなのに。

鶴谷香央理さんのコミック原稿を見ながら(撮影/朝日新聞出版写真映像部・松永卓也)
撮影/朝日新聞出版写真映像部・松永卓也

鶴谷:原作小説にパワーワードが多すぎて、どこを削ればいいのかわからなくなります(笑)。たとえば結婚相談所の小野里さんがいうセリフは一言一句漏らさず書いてしまいたいんだけれど「結婚相談所は最後の手段ではありません。最初の手段なんです」など、原作ではあれほど効果的に響いていたセリフが、マンガとなるとなぜか不自然になることが多いんですよね。原作のファンの方々にとっても「ここは外さないでほしい」という言葉ばかりだろうなと思いながら、泣く泣く削っています。

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