JR東日本の管内の列車に乗っている人は、この4月から、車内の動画のサイネージが大きくかわったことに気がついているだろう。
スマホをみていた女性が、顔をあげると、車内が花でいっぱいになり、「TRAIN TV」の文字が下から浮かび上がる。
1分間のお笑いや、ドキュメンタリー、グルメの番組が流れていく。20分でひとまわりするその番組群の間にCMは流れるようになっている。毎週月曜日の始発から番組は更新される。
このコンテンツ主体の「TRAIN TV」は今年4月から、山手線、中央線、京浜東北線などの首都圏主要10路線を走る列車に搭載された約5万面のデジタル・サイネージで始まった。
新聞・テレビ・雑誌だけがスマホと戦っているわけではない。
実は、この「TRAIN TV」もスマホから、いかに可処分時間をとりもどすかという戦いの中で生まれたアイデアのひとつだ。
人流は戻ったが広告は戻っていない
JR東日本の100パーセント子会社であるジェイアール東日本企画はユニークな広告代理店だ。略称をjeki(ジェイキと発音する)という。JR東日本管内の駅広告や車内広告の枠を独占的に持っている一方で、電通や博報堂のように、クライアントの要請に応じて交通広告以外のテレビやネット、新聞等の広告の枠をとって、クライアントに売ることもする。
つまりこれは、テレビ局の営業局、新聞社や出版社の広告局のように自社媒体(車内広告や駅広告)を売っている一方で、スポンサーと媒体をつなげる広告代理店機能も持っているということである。
したがって、jekiの媒体部門と、営業部門の間にはほとんど交流はなかった。媒体部門にとっては、自社の営業部門は、電通や博報堂と同じ位置づけで、クライアントの要請にしたがって枠をとろうとアプローチしてくる代理店のひとつだった。
その営業部門にいた中里栄悠(2004年入社)とその上司から、交通媒体局にいた佐藤雄太(2002年入社)に声がかかったのは、2022年春のことだ。
2014年ころまで順調に伸びていた交通広告の売上が、伸び悩むようになり、2020年にコロナの時期に入ると、その売上は、3分の1近くまで縮小していた。
「コロナが終わって人流は戻ってきているが、売上はもどっていない。なんとかならないか」
それが、jekiが始まって以来のプロジェクト「TRAIN TV」のきっかけだ。