ジェイアール東日本企画の佐藤雄太(左)と中里栄悠(右)。

NHK以上の超公共性を持つ

 JR東日本の路線に動画のスクリーンで広告を見せるトレインチャンネルが導入されたのが2002年。その中身は7割が広告、3割が天気予報やニュースという情報だった。

 スマホのない時代には、それで広告が溢れるほど入ったのだった。

 ところが、2010年、通信の方式が3Gから4Gになって、動画やチャートが動いている電車の中のスマホでも見られるようになると、スマホの普及が一気に進む。2012年には、49.5パーセントの人がスマホを持つようになった(総務省調査)。これが7割を越える2016年になると、車内でもほとんどの人がスマホの画面に目を落として、窓上やドア上の車内広告(トレインチャンネル)を見なくなった。

 中里がクライアントにプレゼンをしても、

「(広告を出しても)みんなスマホで見ているから無意味だよ」と言われるようになったのも、その頃からの話だ。

 jekiにとって、車内広告や駅広告の売上は、企業存続にとっての生命線だ。スマホの普及で横ばいになった売上が、コロナによる人流の減少で一気に縮小すると改革は待ったなしの状況になっていたというわけだ。

 どうすれば、もういちど人々の視線をスマホの画面からあげさせることができるか?

 そこで出てきたアイデアが、これまで広告が7割だったトレインチャンネルを、コンテンツが主体のものに切り換えるということだった。

 しかし、これは、jekiにとってはとてつもない新規事業だった。テレビ局や新聞社は創業の時から、自分たちでコンテンツをつくってその枠を広告で売っている。jekiは、トレインチャンネルという媒体の枠はもっているものの、その中身をつくったことはなかった。

 プロジェクトは、媒体部門や営業部門のみならずデジタル部門の人間も参加をし全社横断的なものになった。

「TRAINTV 」の部署で働く約20人の社員のほとんどが、佐藤や中里のように原部署からの兼任でこの新規事業を立ち上げた。

 車内の乗客には、一駅しか乗らない人もいる。それを考えると、番組ひとつの時間は1分にしよう。外部の制作会社を使うが、企画自体は自分たちで考えよう。

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