タリバン政権下のアフガニスタンでは、女子は小学校までしか通うことができない。=2024年8月12日(写真:田村秀都)

女性のスポーツ禁止に反発、五輪終幕後も闘い続ける

 今回のパリ五輪は、タリバン統治の残酷さをもうひとつ浮き彫りにした。なんと女性がスポーツをすることを禁じているのだ。

 タリバンの情報文化省の幹部は21年9月、豪公共放送の取材に対し、「(女性がスポーツをすることは)禁じられるだろう。なぜなら、女性がそれをする必要がないからだ」と述べ、パリ五輪でも女性の出場者をアフガニスタン代表とは認めていない。

 当然、スポーツ施設に女性の姿はない。カブールにある複合スポーツ施設内にあるアフガニスタン柔道連盟の練習場の周りでは、自動小銃を携帯したタリバン兵が「警備」という名目で、有刺鉄線が張り巡らされた各ゲートを監視。女性の出入りを厳しく制限し、女性は練習場に立ち入ることすら許されない。柔道以外でもサッカーやバスケットボールの競技場などはもちろん、テコンドーなどの道場でも女性の立ち入りは許可されていない。

 女性のスポーツが禁止されることについて、サミームに聞くと、難しい顔をしながら「その質問には答えられない」と一言だけ答えた。筆者はそれ以上、サミームに回答を求めることはできなかった。女性にもスポーツをする権利がある。そうした当たり前のことさえ語ることが許されないのが、タリバン支配下のアフガニスタンなのだ。

 もちろん反発はある。五輪憲章では、選手が競技会場などで政治的なメッセージを発することを禁止しているが、アフガニスタン出身で現在はスペインで暮らす難民選手団のマニジャ・タラシュ(21)は、新競技ブレイキンの演技中に英語で「アフガニスタンの女性を解放せよ」と書かれた青いケープを披露。失格となったが、大きな注目を集めた。

 パリ五輪が終幕し、失意を胸にアフガニスタンへ帰国したサミーム。

「肉体的な疲労はすぐに回復するが、精神的、心理的な疲労はなかなか回復しない。ロス五輪に出場できるかは分からない。でも、出場するための練習はいくらでもできる」

 練習後、汗を拭いながら筆者にそう語ったサミーム。厳しい練習環境の中でパリ五輪に挑戦したアスリートは、今も必死にアフガニスタンの地で闘い続けている。(ライター・田代秀都)

AERA 2024年9月16日号より抜粋

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