タリバンがアフガニスタンを掌握してから3年を迎えた記念日には、タリバン兵によるパレードが行われた=2024年8月14日(写真:田代秀都)
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 パリ五輪で難民選手団の女子選手が、アフガニスタンの女性解放を訴えるケープを掲げて失格となった。いま、何が起きているのか。現地に向かった。AERA 2024年9月16日号より。

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 取材中、ドーピングで暫定資格停止処分を受けた柔道男子81キロ級のモハマド・サミーム・ファイザド(22)はしきりに、筆者に対し「日本へ移民する機会はないか」と尋ねた。国際労働機関(ILO)によると、24年のアフガニスタンの推定失業率は14.2%(うち15~24歳は18.1%)で、7人に1人が失業状態だ。まともな働き口を探すことは難しく、ロンドン五輪に出場した叔父も現在、失業中。五輪選手だからといって、働き口が見つかるとは限らないのがアフガニスタンの現状だ。

 だが、意外なことに、経済はインフレしていない。23年8月は、1米ドル当たり85アフガニだったが、現在は1ドル=70アフガニ程度と、現地通貨は比較的落ち着いていると言える。しかし、紙幣はボロボロだ。クシャクシャになって、今にも破れそうな紙幣も普通に流通している。

 面白いエピソードがある。アフガニスタンの両替商が持つ仕事道具を紹介しよう。一つは電卓だ。これは古今東西、どこの両替商にも必須だろう。そしてもう一つが、セロハンテープ。何に使うかと言えば、客が来ない時間などに、破れた紙幣をセロハンテープで補修しているのである。

 日本など多くの国では、ボロボロになった紙幣は、中央銀行が各銀行から回収する。その後、新札と交換したうえで、人々の間に流通させることで、紙幣はきれいな状態に保たれている。しかし、タリバン政権後、中央銀行の機能もタリバンが掌握しているため、こうした紙幣の交換業務も正常に行われていないと考えられる。

 今回のパリ五輪は21年8月にタリバンが政権を奪還して以来、アフガニスタン代表にとって初めての夏季五輪だった。厳しい経済状況下だが、アフガニスタンの五輪連盟が渡航費用を準備。パリへ渡航することができたという。

 だが、タリバン政権が他国から承認されていないため、練習以外の手続きに多くの時間を割かれた。アフガニスタンのほとんどの大使館は、タリバンが政権を奪取した際に避難しており、サミームはビザ申請のために隣国のイランまで行かなければならなかった。

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女性のスポーツ禁止に反発、五輪終幕後も闘い続ける