広大なアフリカ大陸のうち25カ国を訪ねてきた、フリーランスライターで武蔵大学非常勤講師の岩崎有一さんが、なかなか伝えられることのないアフリカ諸国のなにげない日常と、アフリカの人々の声を、写真とともに綴ります。
西アフリカのマリで、結婚式に参加した岩崎さん。民族の壁を越えた、懐の深い、にぎやかで華やかな結婚式でしたが、その裏にはマリの厳しい現実が……。そんな状況で、これほど温かい結婚式を開くことができたのは、新郎の深い人間性によるものでした。
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マリの街中を歩いていると、車やバイクがクラクションを鳴らし続けるのを耳にすることがある。そこをどいてくれという意味にしてはあまりに長く、数が多過ぎる。クラクションが聞こえてきた方向に目をやると、着飾った男女がまたがるバイクと、花かざりが施された自動車が、数珠つなぎになって走行している。乗車しているのは、結婚式の新郎新婦とその参列者たち。彼らのにこやかな表情を見ていると、はた目にもうれしさが伝わってくる。
今回の滞在中に、マリ中部の街モプチを取材した私は、結婚式に参加する機会に恵まれた。新郎は、モプチ中心部に構える酒場「シギ」の経営者。シギはモプチの住人なら誰もが知る酒場であり、よってこの新郎も、モプチで広く知られた人物だ。新郎の名はティテ・ギンドゥ、新婦の名はマリアム・ギンドゥ。新郎新婦ともドゴンの民で、ともにキリスト教徒だ。「ギンドゥ」はドゴン族に多い姓で、彼らの姓が同じなのは偶然に過ぎない。
結婚のセレモニーは、新郎新婦が役所に婚姻届を提出する場面から始まる。ニジェール川のほとりにあるモプチ市役所を、10時をまわったころに訪ねると、役所内の一室で、新郎新婦が結婚を誓い、結婚届に署名をしている真っ最中だった。役所の中庭には、鮮やかな色合いの服をまとった女性や、洗いたてのシャツを着た男性など、届け出が終わるのを待つ列席者がそれぞれに再会を喜び、声を掛け合っている。その数は100人をくだらない。
署名を終えた新郎新婦、ティテとマリアムが役所から出てくるのと同時に、列席者が動く。新郎新婦のもとに集まるのではない。それぞれがバイクにまたがり、教会へと一斉に移動するのだ。街中で見かけた結婚式の光景と同じものが、目の前で繰り広げられる。
少なめにみても40台はある小型バイクと、新郎新婦とその家族を乗せた自動車3台が、役所から教会へ向けてクラクションを鳴らしながら進む。事情を知らない日本人が見れば、老若男女が集まって暴走行為をしているとしか思えない車列だが、モプチの人々はこの光景を嫌がるどころか、みなニコニコと遠巻きに見ていた。
5分ほどかけて到着した教会には、車列を成す人々の2倍ほどの列席者がすでに集まっていた。教会内だけではスペースが足りず、プラスチックの椅子を並べた仮設会場まで設けられていたが、それでもすし詰めの状態。新郎新婦が席に着くと、まもなくして式が始まった。
まず、牧師のかけ声を合図に、聖歌を4曲、列席者全員で踊りながら歌う。明るい旋律のなかにどこか切なさを感じるものの、「おごそかに」「うやうやしく」といった雰囲気はなく、歓喜あふれる気持ちが伝わってくる聖歌だ。しかも、その声の主は300を超え、圧倒的な力強さが印象に残る。