「ただし、バブル期のように広範囲の郊外で不動産価格が高騰するような状況にはならないかと思われます。おそらく、国道16号(都心から約30km圏内の郊外を囲む環状線)を超えるエリアまでは波及しないでしょう。せいぜい、町田や相模原、大宮、船橋、柏付近よりも内側のエリアにとどまるはず。駅近の物件にこだわるなら、予算的にはこのエリアの外側で探すのが無難です。最寄り駅から遠くても構わないなら、依然として23区内も選択肢に入ってくるでしょう」
今後、国内の新築分譲マンション市場では三極化が進んでいくと長嶋さんは考えている。この三極とは、①価格が上昇する(もしくは維持される)物件、②緩やかに下落し続ける物件、③限りなく無価値化(もしくはマイナス化)する物件だ。
①に該当するのは、市場全体の10〜15%にすぎないという。該当するのは、都心の億ションを筆頭として、国道16号内側エリアに建つ駅近物件だ。その外側エリアで駅からも遠い物件は③になってしまう可能性が高く、23区内でも利便性の低い物件は②に当てはまる恐れがありそうだ。
では、地方のマンションはどうなるのか? 長嶋さんはこう予測する。
「地方においても、駅近物件や大型開発や誘致の対象エリアに建つ物件、インバウンド需要を大いに見込めるエリアに位置する物件なら、当面は上昇を期待できそうです。今なお地方都市の多くでは地価が下がり続けているものの、それに該当するエリアであっても駅前の物件が億ションとなるケースが実在します」
路線価からみる今後の上昇エリア
現に、国税庁が7月1日に公表した今年1月1日時点の相続税路線価(いわゆる路線価)においても、長嶋さんの発言を裏づけるような結果が出ている。全国平均は前年比+2・3%で小幅ながらも3年連続での上昇を遂げたが、地方において著しい上昇を遂げたエリアが見られる。
長野県白馬村北城の+32.1%や岐阜県高山市上三之町の+17.8%など、インバウンドに人気の観光地が対前年比で驚異的な上昇率となっている。また、TSMC(台湾積体電路製造)が進出し、第2工場の建設も計画されていることを背景に、熊本県菊陽町光の森3丁目が24%の上昇を記録した。 さらに、東京都心の物件があまりにも高騰したことから、地方の主要都市に物色対象を広げる動きも観測されるという。
「もはや東京では1億円や3億円が当たり前になっていますが、同程度のクラスの物件が大阪なら5千万円台、福岡なら3千万円台で購入できます。言わば株式市場における“出遅れ株”のように、次に上昇が顕著になるエリアを求めて循環物色が行われています。出遅れているだけに、今後の上昇率が東京を上回る可能性はありそうです」(同)
県庁所在都市における2024年の路線価上昇ランキングは、1位から東京、大阪、横浜、名古屋、福岡、京都、札幌、神戸、さいたま、仙台の順だった。おそらく、循環物色もほぼこの序列で進んでいくのではないか?
ただ、不動産市場にとって冷や水となりうる材料も存在している。今年の7月30〜31日に開催された金融政策決定会合で、日本銀行は政策金利を0.25%程度に引き上げる方針を固めた。2013年から続いてきたマンション価格の上昇トレンドは超低金利が下支えしてきただけに、この金融引き締めが今後の相場にも悪影響を及ぼすのではないか?