大学3年でダニの実習 「何だこれは! 面白い」
70年代後半、五箇が小中学生だった頃は、校内暴力が吹き荒れた時代。特に男子には序列ができがちで、喧嘩(けんか)をしたら勝算がなさそうだった五箇は「学校ではおとなしくしているのが賢明」と心に決めた。この頃は暗黒時代だったという。
とはいえ、好奇心が旺盛な五箇は、富山平野の豊穣(ほうじょう)な自然に触れ、生き物のとりこになる。小学校の帰り道、毎日のように昆虫採集をして帰った。 週末は田園地帯にある父方の実家に預けられ、群れを作って滑空する赤とんぼの光景に息をのんだ。

飼育マニアで、カマキリやマムシなどを捕まえては持ち帰り、エサとなる生き物を与えて捕食する姿を何時間も眺めた。さまざまな生き物のオスとメスを交配させて増やすことにも夢中になった。
高校時代からは身長も学力も伸びて、学校でのキャラを変えた。「裏番長」のように振る舞い、宿題プリントを販売したり、禁を破ってバイトをしたり、悪さばかりしていたという。
黎明(れいめい)期だったバイオテクノロジーへの関心から、京都大学農学部を受験。見事合格して84年に入学する。バイクでツーリング三昧の日々に。日本を縦断して、流れゆく景色に身を委ねた。
大学3年の時、人生を変えたダニと出会う。
顕微鏡が並ぶ実験室。実習で訪れてレンズを覗(のぞ)くと、脚が8本伸びた小さな生き物が蠢(うごめ)いていた。直径は約0.5ミリ。ちっちゃいくせして、メスの取り合いをするオス同士がケンカまでしていた。
「何だこれは! 面白い」
それはダニの中でも、葉にくっつく「ハダニ」で、研究領域としても魅力があった。成長が速く、世代交代の期間も短い。日本国内という狭いエリア内でも、たちどころに分化して違う種類になっていく。その系統の分かれ方を遺伝子で解析すると、進化のダイナミズムに触れられる。卒論研究は「ダニの遺伝と進化」のテーマを選んだ。
(文中敬称略)(文・古川雅子)
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