ヒアリの日本侵入を初期段階で食い止める

 たとえば、人間を襲い、農地を荒らすヒアリ。2000年代に入って05年までの5年間で、ニュージーランド、オーストラリア、東南アジア、中国と、アジア・太平洋諸国に広がっていた。日本では対策が取られていなかったが、経済ニュースに目を配る五箇は、物資・人流のグローバルな動きから、「ヒアリが日本に来るのは時間の問題」と考え、警告を発していた。その読み通り、17年以降、海外からのコンテナで次々と発見される。素早い防除策が取られ、日本では侵入初期の段階で食い止めることに成功。専門家グループの一員として水際での対策に当たっていたのが、五箇である。

 また、2020年以降は新型コロナウイルス・パンデミックが発生。以前から、人獣接近から起こる感染症のリスクを警告していた五箇は、「予言者」だと言われた。

「全力!脱力タイムズ」の収録風景。突然コメントを求められても、五箇は涼しげに対応。いつでもニコニコ顔で、短時間に早口で話す。「話も面白いし、出過ぎず周囲を気遣いながら話せる人」(名城ラリータ)(写真/横関一浩)

 人間が「余計なもの」を持ち込むことで生物の多様性が壊れ、環境に悪影響を及ぼす。五箇は「生き物についた感染症は、人間の間にも流行して甚大な被害をもたらす可能性がある」と訴えていた。新型コロナの流行は、そんな厄介な時代の到来を証明した形だ。

「『時代が五箇さんの後についてきた』と表現する人もいた。五箇さんが先を読めるのは、研究の着目点がいいからだと感じますね」(山野)

 五箇の先読みの根拠は、生物のメカニズムを解明する基礎的な研究だ。現在、彼が専門とする生物多様性の保全には、遺伝子、種、生態系という各レベルでの深い知識に加え、広い視野が要る。

 五箇は、感染症リスク管理の上でも生物多様性の保全がいかに大事かを伝えるため、20年4月に「新型コロナウイルス発生の裏にある“自然からの警告”」と題する動画番組をYouTubeで公開。再生回数は18万回を超えた。

 この番組に目をつけたのが、当時、環境大臣だった小泉進次郎だ。視聴後、五箇に、「コロナ後の日本の未来を考えるための私的な勉強会を開こう」と提案。座長となった五箇の名にちなんで、通称「五箇勉強会」が立ち上がる。集められたのは、京都大学名誉教授・山極寿一、筑波大学准教授・落合陽一、ゴールドマン・サックス証券元副会長・キャシー松井をはじめ錚々(そうそう)たる顔ぶれだった。

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昔はひょろひょろしていて全く目立たない男の子