仕事場でCG描画に取り組む五箇。蒐集した怪獣フィギュアを披露するのは人を驚かせたい一心から。「今、環境の仕事をしているのは、人間が好きだから。人間社会がどう変容するのかを考えるのが面白い」(写真/横関一浩)

 小泉に五箇をつないだのは、環境省前自然環境局長の奥田直久(現・駐バヌアツ日本国特命全権大使)だ。長年、五箇と組んで仕事をしてきた。

「2023年より進められている国家プロジェクト『生物多様性国家戦略』の基本的な考え方の最もベースになる材料を、この勉強会で提供してもらったと私は理解しています」(奥田)

 さらに五箇は、プレゼンが上手い。これまで環境研で彼が担ってきたプロジェクトで国から獲得した予算は、ゆうに10億円を超える。同研究所の生物多様性プログラムでダントツ1位だ。ところが“出る杭(くい)”であるがゆえに、五箇は環境業界の関係者からは嫉妬もかう。15年からくりぃむしちゅーの有田哲平がMCを務めるフジテレビのバラエティー番組「全力!脱力タイムズ」にレギュラー出演していることも、面白く思わない人はいる。

 本人は詳しいことを言わないが、ある時こう呟(つぶや)いた。

「研究者同士で足を引っ張ったり嫌がらせをしたりなんていうのは、研究組織の“あるある話”。自分もそこをかい潜ってきたという感覚はある」

 五箇の半生をひもとくと、人前に立つことが必然になっていく経緯が見えてくる。

 両親はともに、富山県高岡市の出身。だが、五箇が物心ついた頃には父がいなかった。4歳の時に脳卒中で急逝したのだ。

飲む機会の多い同僚の研究者は、五箇を「寂しがりやの人たらし」と評する。プライベートでは、毎年の年初に開く五箇の誕生祝いに100人近くの友人が集まる。本人は「よかれ悪しかれ、人間関係はウェット」(写真/横関一浩)

 母・洋子(87)によれば、父は今の五箇と同様に快活で、いつも大勢の仲間に囲まれている人だったという。生前、父が日本鋼管(現JFEスチール)に勤めていたため横浜に住んでいたが、父の死を機に一家は富山に帰郷。母、妹と、母方の実家の家族が同居し、大家族になった。

 五箇は「口から生まれてきた」というほど、元来は多弁だ。だが幼少期の五箇は、学校では寡黙な少年だった。身長が低く、勉強は「さっぱりダメ」(五箇)。小学校時代の同級生で、現在は五箇のパートナーの女性(60)は、大人になって再会して、五箇の変貌ぶりに驚いたという。

「昔はひょろひょろしていて全く目立たない男の子でした。私と話したことはほとんどなかった」

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