サングラスを外すのは家だけ。着たい服しか着ない。黒い服を着るうち「自然とこの髪形に落ち着いた」(写真/横関一浩)
この記事の写真をすべて見る

 国立環境研究所生態リスク評価・対策研究室室長、五箇公一。黒ずくめの服装にサングラス。最初はその姿に圧倒されるが、口を開けば人懐こさがにじみ出る。学者として環境保全を研究し、これまでにもヒアリなど有害生物の侵入を予測し、初期段階での食い止めに貢献。仕事に邁進する一方で、テレビにも出演し、その愛嬌で人気を博す。全力で楽しむことが、環境問題の啓発に一役買う。

【写真】個性的な昆虫学者・五箇公一さんの写真はこちら

*  *  *

 黒光りするサングラスに革ジャン。もわりと柔らかくウェーブした白髪まじりのリーゼント。この怪異な風体の男性こそ、「ダニ先生」の愛称で親しまれる昆虫学者の五箇公一(ごかこういち・59)だ。

 今年5月、つくば市にある五箇の仕事場で初めて会った時、趣味で集めているという怪獣フィギュアが、ざっと500体以上は並んでいた。

「これだけ並ぶと仏像が並ぶ寺院みたいで、俺はここを三十三間堂って呼んでいる。自分でもやりすぎだと思うけどね、怪獣を背景にオンラインでしゃべると、みんな喜んでくれるんだよ」

 ワルぶった中年オヤジ風なのに、少年のような愛嬌(あいきょう)もある。帰り際、五箇は私にダニの絵のポストカードを差し出した。

「これ、お土産にどうぞ。CGで俺が描いた。昆虫っぽいフォルムがいいでしょ?」

 生き物愛を全開にし、その造形を絵にして見せびらかすのが五箇流の交際術なのだ。描いた絵が褒められると、ことのほか喜ぶ。

 なぜ五箇はこんなにも“ご機嫌”でいられるのか。目立つ格好でパフォーマンスするのはなぜか。

今年5月、森の大切さを社会に伝えるイベント「SDGsミライテラス」で登山を趣味とするモデルでタレントの押切もえと共演。五箇はCGで描いた生き物の絵とともに話を展開。絵の才能は趣味で油絵を描く母親譲りだという(写真/横関一浩)

 五箇が所属する国立環境研究所の元上司で、現在は東京大学大学院理学系研究科教授の山野博哉(54)は、仕事場をフィギュアで埋め尽くす五箇が、いかに自由奔放な個性の持ち主かを熟知している。

「環境を研究する場の“環境”が怪獣だらけでいいのか。まあ、これも多様性ということで(笑)」

 五箇は「外来種バスター」の異名も持つ。有害生物の侵入を予測し、ピタリと的中させてきた。

次のページ
ヒアリの日本侵入を初期段階で食い止める