義足を開発するオズールのチーム。中央がクリストファー・ルコントさん=アイスランド・レイキャビクのオズール社で(写真:越智貴雄)

 この挑戦を支援しているのが、アイスランドの義足メーカー、オズール社だ。現在はテクニカル部門の最高責任者で、20年以上にわたって競技用ブレードの製作に関わってきたクリストファー・ルコントさんはこう話す。

「走り幅跳びで大切なのは、助走で速く走ることと、ジャンプをする時の最後の一歩。ジャンプの時に義足にかかる力は5千ニュートン(約510キロ)です。助走のスピードを保ちつつ、最後の一歩で力をちゃんと伝えられるようにしています」

耐久性と反発力を両立

 オズール社の走り幅跳び用義足が発売されるまでは、ブレードが壊れやすく、全力でジャンプすることに恐怖感があった。それが、耐久性と反発力を両立させた義足が開発されたことで、レームは記録を次々に塗り替えるようになった。

 ブレードと地面が接触する靴底に相当する部分のソールは、ナイキと共同開発している。

 近年、ナイキが発表した革新的商品の一つに、マラソン用の厚底シューズがある。この製品の登場で2010年代半ばからマラソンレースが高速化し、不可能と思われた2時間切りも視野に入っている。厚底ソールの中に入ったカーボンとのコンビネーションはオズールの義足の技術と似ているため、パラ関係者の中には「厚底シューズはオズールの技術の影響も大きかったはずだ」と言う人もいる。

 一方で、レームが強くなりすぎたこともあり、義足の使用が「テクニカル・ドーピング」と批判され、義足の選手が五輪に出場することはなくなった。ただ、レーム自身は五輪選手と同等の扱いを受けたかったわけではないという。

「以前はこう考えていたんだ。世界ではオリンピックを知っている人が多い。オリンピックというプラットフォームを使えば、パラリンピックの宣伝になって、僕たちの競技を見せることができると思っていたんだ」

 それも、パラリンピックの認知度が向上してきたこともあり、彼の心も変化してきた。

「本物の素晴らしいジャンプを見たいのなら、あるいは(走り幅跳びを愛する)本物のアスリートであるならば、走り幅跳びはオリンピックのみにあるわけではないということを人々に伝えたいんだ」(同)

(フリーランス記者・西岡千史)

AERA 2024年9月9日号より抜粋

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