ただ、今大会で使用する電動車いすの構造は、4年前から様変わりした。新たな課題「リフトアップ」に対応するため、いちから作り直したという。
以前からあった「レストラン」という課題では、太ももを半分までテーブルの下に入れる必要があるため、車いすの座面の高さは床から60センチ以下に制限される。
ところが、新課題「リフトアップ」では、状況に応じて座面の高さを変えなければならなくなった。
「これをクリアするためにはどんな構造がいいか、かなり考えました」(鄭教授)
新型の車いすは、真横から見るとX字状の構造をしており、これを「はさみ」のように動かすことで座面が最大30センチ上がる。それによって、今まで難しかった高さまで手が届くようになった。
「でも、それだけではないんです。目線が上がることで、健常者と普通の感覚で話せるようになる。なので、パイロットはとても喜んでいました」
競技結果より実用化を目指す
サイバスロンには、さまざまなタイプの電動車いすが登場する。大きな車輪が複数あるものや、重機のようないかついクローラーで動くタイプもある。
与えられたさまざまな課題を効率よくクリアするため、そのような仕組みが採用されたわけだが、鄭教授は「実用化には疑問符がつく」と感じる。
普通の家の中など日常生活で使えるようにするには、できるだけ普通の車いすの形やサイズから離れないようにしたほうがいい。それが鄭教授の設計のベースにあるという。
20年の大会はコロナ禍で、それぞれの出場国とサイバスロンの事務局があるスイスをオンラインで結んでの開催となった。そのため、出場環境を整えることができず、参加を断念したチームもあった。
中嶋教授は話す。
「第1回大会は相当盛り上がりましたが、今回はそれ以上に盛り上がることを期待しています」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)