大きな盛り上がりを見せたサイバスロンの第1回大会(サイバスロン2016)の会場。スイス・チューリヒ(ETH Zurich CYBATHLON Nicola Pitaro)
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 日本選手のメダルラッシュで盛り上がったパリ五輪に続き、パリ・パラリンピックも29日(日本時間)に開幕した。そして今、もうひとつの障がい者の国際大会の準備が、着々と進んでいる。それが10月25日からスイス・チューリヒで開催される「サイバスロン」。人と機械の融合を目指す、異色の“サイボーグ五輪”だ。さまざまな障害を克服するための最先端の技術を競う場だ。

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 ソファやテーブル、食器棚、階段……。

 サイバスロンの競技会場で、観客が見つめる選手たちの「熱戦」の舞台にあるのは、日常生活で見慣れたものばかりだ。

 競技に出場する身体障がい者の選手たちは「パイロット」と呼ばれ、さまざまな課題に挑戦する。その課題とは、階段を上り下りしたり、両手に荷物を抱えたまま一本橋を歩き切ったり、洗濯物を干したり、電球を取り換えたりするというもの。競技の種目とは思えないことばかりだ。

 しかし、課題に向き合うパイロットたちが装着している義手や義足は、筋肉の微弱な電気を読み取り、コンピューター制御で細かい作業も可能にする最先端のもの。車いすも通常の車いすでは進めない悪路を文字通り突破し、パイロットを安全に運んでいくのだ。

 サイバスロンは、機器を開発するエンジニアと、それを動かすパイロットが二人三脚でチームを組み、金メダルを目指す。

 パイロットが課題を達成してゴールした瞬間、一斉に歓声が上がる。タイムだけでなく、動作の滑らかさも勝敗を分ける。

サイバスロンの共同代表、アンネグレット・ケルンさん

「今、パリでパラリンピックが開催されていますが、サイバスロンにとっての『競技』とは、体が不自由な人が日常生活で使う支援技術の開発を促進し、彼らが直面する課題に注目してもらうための手段です」

 サイバスロンの共同代表、アンネグレット・ケルンさんは語る。
 

 サイバスロン誕生のきっかけは2012年、電動義足を装着した男性が、米シカゴの超高層ビル「ウィリスタワー(旧シアーズタワー、442メートル)」の外壁を登ったことだった。

「チューリヒ工科大学のロバート・ライナー教授はそれを見て、衆目の前で競争することが実用的な支援機器の開発に役立つと考えたのです」

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