
さらにジャックは「たくさんの人に聴いてもらおうとした瞬間、たちまち聴かれなくなる」と言葉を続ける。
「以前から感じてるんだけど、世の中に合わせようとすれば逆に相手にされなくなるし、もし波に乗れてヒットしたとしても、その波と一緒に消えることになる。“この曲はどうだ”と上から目線で押し付けるのではなく、濁りのない、純粋な意図を持って曲を作ることがいちばん大事だし、そうじゃないと芸術の世界で生きていくのはとても辛いんじゃないかな」
自分自身のプライベートな出来事をもとにして曲を書き、自らが欲する音、好きな音を積み上げて制作されたアルバム「ブリーチャーズ」。本作を聴いて、“あなたはあなたのままでいい”という肯定的なメッセージを受け取る人も少なくないだろう。ポップミュージックが社会に与える影響について質問すると、こんな答えが返ってきた。
「ずっと聴き継がれる音楽にはそれだけ訴えるものがあるし、頭のなかにずっと残ることもある。そういう音楽には人の意識を思いもよらないところに運ぶ力があって、そのなかで社会的なこと、政治的なことを考えることもあると思うんだよね。僕自身もそうやって音楽を聴いてきたし、音楽が社会にもたらす影響力はとても大きいんじゃないかな」
(取材・文/森 朋之)
ジャック・アントノフ/米ニュージャージー州出身のソングライター、プロデューサー、アーティスト。プロデューサーとしてテイラー・スウィフト、ロード、ラナ・デル・レイなど数々のヒット作品を手がけ、今までにグラミー賞年間最優秀プロデューサー賞を含む計10部門で受賞している。自身のアーティスト活動としてはバンド・Outline、Steel Trainを結成し数枚のアルバムをリリースした後、2008年にUSのポップ・ロック・バンド、Fun.を結成。2012年にはセカンド・アルバム『Some Nights』で第55回グラミー賞の最優秀新人賞、最優秀楽曲賞を受賞している。2014年にソロ・プロジェクト、Bleachersとしての活動を開始。2019年にはSam Dew、Sounwaveとのプロジェクト、Red Hearseをスタートするなど精力的に活躍している。2024年3月にはソロ・プロジェクトのBleachersとして新アルバム『Bleachers』をリリース。24年8月には9年ぶりに来日し、SUMMER SONIC 2024に出演した。
