十回表無死一、二塁、京都国際・代打の西村が左前安打を放つ。「サインはバントだった。裏をかいて打ちにいった」(撮影/写真映像部・松永卓也)

 スコアボードが静けさを保ったまま、甲子園決勝では初となるタイブレークに突入した延長10回表。無死一、二塁から、京都国際は代打の西村一毅がバスターの構えから左前へヒット。満塁として、金本祐伍がフルカウントから押し出しの四球を選んで1点。両校合わせて19イニング目に得点が刻まれた。三塁走者だった奥井は自らの足で「遠かった」ホームを踏み、少しだけ緊張がほぐれた。

「我慢勝負が続いていた中で、やっと1点が取れてホッとした」

七回から継投した関東第一の坂井。150キロに迫る直球など持ち味は見せた。「甲子園では楽しんで気持ちよく投げられた」(撮影/加藤夏子)

 三谷の犠飛で追加点を奪った京都国際は、10回裏のマウンドを2年生左腕に託した。無死満塁から内野ゴロの間に1点を失った西村は、なおも1死満塁とピンチを背負う。それでも、成井聡をファーストゴロに、そして坂本慎太郎を空振り三振に仕留める。

 最後の決め球は、得意のチェンジアップではなかった。

「キャッチャーを信じて投げた」と言う西村に、スライダーを要求した奥井は言う。

「今日の西村はチェンジアップがハマっていなかったので、スライダーに。ただ、最後は配球というよりも、気持ちの問題だと思っていた。西村には『気持ちを込めて投げてこい』と。それだけでした」

十回からマウンドに上がった京都国際・西村は1点こそ失ったものの優勝投手に(撮影/写真映像部・松永卓也)

 タイムリーなき決勝で、西村が甲子園のど真ん中で両手を突き上げる。無失策で耐え続けた関東第一を退け、延長戦を制した京都国際が初優勝だ。

「最後も、チームとして束になって相手に向かっていけた」

 そう振り返る奥井の顔からは、試合前に抱いたわずかな不安が消えていた。

決勝を戦い終えて健闘を称え合い、抱き合う両主将(右端)(撮影/写真映像部・松永卓也)

(佐々木 亨)

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