2024年、夏。今年も甲子園で高校球児たちの熱戦が繰り広げられた。第106回全国高校野球選手権大会の名シーン、名勝負を振り返る。今回は、8月23日の関東第一(東東京)ー京都国際(京都)について。

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アルプススタンドへ駆け出す京都国際の選手たち(撮影/写真映像部・松永卓也)
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 試合前のシートノック。

 京都国際の捕手である奥井颯大は、実際に目にする関東第一の軽快な動きにちょっとだけ驚いた。

「ミスをしない堅い守りでレベルが高い。なかなか点が入りそうにないな……」

京都国際の先発・中崎は9回無失点とエースの働き(撮影/写真映像部・松永卓也)

 その予感通り、スコアボードには「0」が並んだ。2回表、2死から京都国際の高岸栄太郎が放った打球は、完全にセンター前へ抜けるかと思われた。だが、関東第一の遊撃手である市川歩が好捕。素早く体勢を整えて、一塁へ正確な送球を見せる。3回表も市川だ。2死一、二塁から三谷誠弥が放った打球に対して、定位置から反応のいいダッシュを見せて華麗なグラブさばきで好捕。スナップスローで一塁へ送球して、京都国際のチャンスの芽を摘む。市川は言うのだ。

二回表、関東第一の遊撃手・市川が遊ゴロを華麗にさばく。市川再三の好守備を見せた(撮影/加藤夏子)

「守備では『このままいこう』と思ってプレーしていた。でも、点が入らずに同点のままだったので、イニングを追うごとに緊張が増しました」

 高度な守備力で耐えしのぐ関東第一に対して、京都国際の先発マウンドに立った中崎琉生も無失点を続けた。エースのボールを捕手はこう見ていた。

「終盤になって浮き出し始めましたが、今日は真っすぐもスライダーもまとまっていた」

 そして、奥井は言葉を加えるのだ。

「どっちも点が入る雰囲気がなくて、一つのミス、一つのプレーで流れが変わるなと思っていた」

五回表、京都国際・奥井は左中間へ二塁打を放ち、二塁塁上でガッツポーズ。この試合唯一の長打だった(撮影/写真映像部・松永卓也)
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甲子園決勝初のタイブレークに突入