音駒(ねこま)高校の孤爪研磨(『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』 (c)2024「ハイキュー!!」製作委員会 (c)古舘春一/集英社)

陽と陰のキャラクター

 日向と影山。このふたりは、スポーツ漫画の王道である「陽」と「陰」を示すキャラクターだ。

 このふたりをバスケットボール漫画の金字塔「スラムダンク」と比較してみよう。異常な才能に恵まれていながらそれに対して無自覚、競技に対して純粋な日向は、まさに桜木花道と同系統の主人公だ。王様と揶揄(やゆ)される影山は、桜木と一対のキャラクター、流川楓と同じ香りが漂う(4人全員、定期テストで苦労しているところまで一緒)。

 両作ともに成長をたどる物語であるが、「ハイキュー!!」と「スラムダンク」には決定的な違いがある。それは「ユニット」と「個人」の違いだ。

 バスケットボールの得点は、最終的には個人の技量に委ねられる。「スラムダンク」には、初心者の桜木がシュート練習を繰り返し、「左手は添えるだけ」というキラーワードがあるが、これは最終的には個人が状況を打開しなければならないことを示している。この傑作は個人の成長物語の集積だが、だからこそ、22年になって漫画では助演だった宮城リョータが主人公の映画版へとスピンオフが可能にもなった。

中高生に行動させる力

 片やバレーボールはひとりではスコアできない。スパイクを決める過程では、レシーブがあり、トスというプロセスを経る。つまり、このバレー漫画では必然的にユニットとしての成長が描かれる。陽と陰、お互いがインスパイアしながら成長し、物語はインターハイ予選から夏合宿、そして春の高校バレーへと紡がれていく。

 もちろん、バレーボールでは個人技でも点が取れる。それがサーブであり、ブロックだ。「ハイキュー!!」ではこうした技術の追求についても丹念にエピソードが描かれるが、結局、「スラムダンク」以降のスポーツ漫画で成功した作品は、技術面ではリアルを追求したものばかりだ。

 昭和は「巨人の星」「アタックNo.1」に代表されるように魔球の時代だった。しかし、平成以降の漫画では基本技術をエンタメに昇華させた漫画が成功を収めている。「ハイキュー!!」ではスパイクを打つタイミング、ブロックとリベロの連動、そしてネット越しでのセッターの見えない戦いなどがエンタメへと昇華している。

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五輪ロスに陥っている人がいたら「ハイキュー!!」がおススメ