避難生活が続く被災者と、目線の高さを合わせて話をする両陛下=2024年4月12日、石川県、JMPA

 女性はふと、両陛下が歩いてきた店の前の道路に視線を落とした。路面は地震でデコボコ。端っこに寄せてはいたが、コンクリートの瓦礫も残っている。

 もともと両陛下がこの美容室に立ち寄る予定はなかった。だから、客が足をひっかけないように片づけてはいたものの、範囲を広げた掃除をしていなかったのだ。

「足元が悪いところに……」と申し訳なさがこみ上げてきたが、陛下も雅子さまも気にする素振りはない。おふたりは、呆然となって椅子から腰を上げられない客たちに向かって前かがみになりながら、話しかけていたという。
 

心配そうな表情の陛下と雅子さま

 あまりに突然の出来事だったため、女性はおふたりとどんな会話をしたのか、詳しく覚えていない。

 しかし、陛下と雅子さまがずっと心配そうな表情で寄り添うように話しかけてくれたこと、そして自分たちが緊張しないよう、やさしい口調だったことは記憶しているという。
 

 両陛下が訪れた商店街では、倒壊した店舗の撤去作業などが始まった。

「もう高齢だから、店は建て直さない」「このまま店はやめる」。そんな声ばかりが耳に届く。壊れた建物が撤去されたら、土と道路しかない町になるだろうと感じている。

「殺風景になった土地で、自分の美容室のネオンポールだけが回る風景を想像すると、さみしいです。でも、両陛下がこの町の人たちに会って、共感し、寄り添ってくださった。頑張ろう。前を向いていこう。そう思うことができました」

 店主の女性は、明るい声でそう話した。
 

犠牲者が出た場所に向かって深く頭を垂れ、祈りを捧げる両陛下=2024年4月12日、石川県、東川哲也撮影(朝日新聞出版/JMPA)

 穴水町と能登町を訪れた両陛下は、避難所での生活を強いられている被災者の声に耳を傾け、津波で住宅が流され、死者が出た地区では深く頭を下げ、祈りを捧げた。

 この日、おふたりが皇居に到着したのは夜10時ごろだったという。

(AERA dot.編集部・永井貴子)