佐藤さん(「マンダリン オリエンタル ハイド パーク ロンドン」提供)
この記事の写真をすべて見る

 今年6月の天皇、皇后両陛下英国ご訪問の際、現地在住の“寿司シェフ”佐藤美穂さん(53)は、英国王王妃が主催する国家晩さん会に招待された。【前編】では、両陛下との対面を「人生の金メダルを頂いたような感覚」と表現した佐藤さん。女性の寿司職人としてチャンスをつかむため、約30年前に海を渡った自身の半生を振り返ってもらった。
【前編】〈バッキンガム宮殿で天皇、皇后両陛下と国王ご夫妻に……女性“寿司シェフ”が経験した非現実な一夜とは〉から続く

【写真】これは芸術品!佐藤さんが手がける寿司はこちら

フォトギャラリーで全ての写真を見る

 日本で調理師学校を卒業したのち、ドイツやイギリスの和食レストランの厨房を渡り歩いてきた佐藤さんは、現在、英国の5つ星ホテル「マンダリン オリエンタル ハイド パーク ロンドン」内にある高級居酒屋「The Aubrey(オーブリー)」で“ヘッド寿司シェフ(寿司部門の料理長)”を務めている。

 調理師学校時代は、和食、洋食、中華とさまざまなジャンルの基本技術を一通り学び、得意料理は洋食だった。だが、「わびさび」が根底に流れる日本文化の造形美に魅かれていたこともあり、「自分の五感を大切に料理を作りたい」と、あえて女性がほとんどいない和食料理人の道を歩むことに決めたのだという。

日本でシェフを続けるのは難しかっただろうと…

 そして学校を卒業するころになると、講師から「日本を出て働いてみてはどうか?」とアドバイスされ、鉄板焼きや寿司を提供するドイツの日本食レストランからのオファーを受けることにした。

 自身の決断について、佐藤さんはこう振り返る。

「正直、海外なんてまったく興味はありませんでした。でも講師の先生は、男性中心の料理人の世界で女性はあまり活躍できないんじゃないかという懸念があったんでしょうね。約30年前の日本の飲食店は、着替えられる場所がなかったり、従業員トイレがすべて男性用だったり、まかないは立って食べなければいけなかったり、女性にとって劣悪な職場環境のお店もたくさんありました。私は忍耐強いほうですが、日本でシェフを続けていけたかと考えると、難しかっただろうと思います」

著者プロフィールを見る
大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

大谷百合絵の記事一覧はこちら
次のページ
「ずっと孤独でしたよ」