英国王妃主催の晩さん会に夫婦で参加した佐藤さん(本人提供)

コロナ禍で「自由な生き方」へシフト

「みんながみんな、シェフになりたくて働いているわけじゃないんですよ。グラフィックデザイナーになりたいけどそれだけでは食べていけないからという人や、もはや目指しているものがない人もいる。コロナ禍を機に『休日も充実させつつ、興味のある仕事をしたい』『もっと楽しんで生きなくちゃ』と、自由な生き方を求める方向にシフトしていったのだと思います。だから私も、日本食の技術は教えてほしい人に教えられればいいかと、考え方が変わりました」

 今の佐藤さんが目指しているのは、寿司だけでなく、お茶や着物といった幅広い和の文化を一緒に楽しんでもらえる場を作ること。お酒のペアリングなども考慮した“omakase”メニューでゲストをもてなしたり、筆ペンでメッセージを書いて喜んでもらえたり、といった経験からインスピレーションが湧いたという。

「人から必要とされて、今私はたまたまここにいる。これからも自分を求めてくれる場所で、その期待に応えたいです。先のことなんかね、わかんないですよ」

 女性であるが故のハードルをものともせず、一流レストランの“ヘッドシェフ”に上り詰めた佐藤さんは、何の気負いもなく「うふふ」と笑った。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

著者プロフィールを見る
大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

大谷百合絵の記事一覧はこちら