現在の職場「The Aubrey」は、オープンした2022年1月から働いている。店の立ち上げに伴い、厨房を取り仕切るシェフを決めるコンペに出てほしいと声がかかった。審査では、日本人だからといって有利になるわけではなく、腕前の確かさや知識の豊富さ、そして店のオーナーのイメージにマッチした料理を作れるかが問われた。結果、見事 “ヘッド寿司シェフ”の座を射止めた。
カリフォルニアロールは邪道なのか
Aubreyを訪れる客たちは、国籍も食の好み、こだわりも多種多様で、日々“難易度”の高い要望の数々と格闘しているという。
「グルテンフリーで作ってほしい」「私は大豆アレルギーなんだ」「イスラム教徒なのでハラルフードしか食べられない」、さらには「魚は嫌い」などと言ってくる客もいた。佐藤さんは、グルテンフリーの醬油麹を作ったり、魚を使わずに出汁をとったり、工夫をこらしている。
「日本人は、シェフが作った料理を黙って食べて、気に入らなかったら二度と行かないという人が多いけれど、外国の人はサービスや雰囲気が気に入ったお店があれば、『自分はこういうものが食べられないけど、この店には来たいんだ』と申し出て下さる方が多い。そういうリクエストには応えてあげたいですよね。日本では、『寿司としてカリフォルニアロールを出すのは邪道だ』といった見方もあると思いますが、私は、そのお客さんが満足してくれて、お店のコンセプトにも合うものを作ることしか考えていません。ただ、自分の味は信じているので、日本人が食べても日本食としておいしいと思える味、というのはすべての料理のベースにあります」
プライベートの充実はさておいて、仕事一筋で人生を歩んできたという佐藤さんは、「子どもはキッチンに100人いますから」とあっけらかんと笑う。今後も一人でも多くの若いシェフたちに日本食を教えることが自分の使命だと思ってきたが、最近は、現場で“ジェネレーションギャップ”を感じるようになったという。