世界的に見ても「睡眠時間が短い国」とされる日本。世界協力開発機構の2021年の調査では、加盟する33カ国の平均睡眠時間が8時間28分なのに対して、日本人の平均は7時間22分と1時間以上短い。日本人は、いつから「眠らない国民」になったのか。シリーズ累計145万部の「超基本」シリーズ最新刊で、睡眠研究の第一人者・柳沢正史氏が監修した『今さら聞けない 睡眠の超基本』が、日本人の睡眠の現状について詳しく解説している。本から引用する形で紹介したい。
睡眠不足は「重篤な健康問題」が世界の常識
1960年当時、日本人の平均睡眠時間は8時間13分と理想に近いものだった。しかし、そこから2015年までの55年間、つまり、高度経済成長期、バブル期、バブル崩壊後のいわゆる「失われた30年」の間ずっと、日本人の睡眠時間は短くなり続けた。
これを、「日本人の勤勉さを示す数字だ」と喜んではいられない。
日本人の働く世代には睡眠不足は一般的で、仕事中や通勤途中の電車でウトウトしている光景は珍しくない。しかし、昼間に眠いという場合、睡眠が不足している可能性が高い。睡眠不足は日本では軽く見られがちだが、海外では「身体の調子が悪い」とみなされ、とても心配される。「行動誘発性睡眠不足症候群」という名前がつく病気の一種で、脳のパフォーマンスが下がるうえ、うつや糖尿病、高血圧、認知症、がんといった疾患リスクが高まり、心身が深刻なダメージを受けてしまう。睡眠不足は「重篤な健康問題」というのが世界の常識なのだ。
睡眠時間が長い企業ほど利益率が高い
世界経済フォーラムが、世界各国の平均睡眠時間と国民一人当たりのGDP(国内総生産)を比較したところ、「睡眠が十分に取れている国は生産性が高く、睡眠不足の国は生産性が低い」という傾向が見られたという。日本人の睡眠不足による経済損失は年間約15兆円という試算もある。
慶應義塾大学の調査では、従業員の睡眠時間が長い企業ほど利益率が高いことがわかっている。経済産業省の報告によると、社員1人あたりの休養・睡眠不足による年間の損失は約33万円。肥満による損失が約3万円、運動習慣による損失が約3万5000円なのに対し、突出している。アメリカのランド研究所による2016年の調査では、日本全体で、先進カ国の中で最も大きい、年間最大1380億ドルもの損失があると推測されている。しかし、多くの人はこれに気づかない。自身の睡眠不足に慣れてしまっているのだ。
さらに深刻なのは、1日1時間の睡眠負債を「完済」するには約4日かかるという現実だ。