AERA 2024年8月12日-19日合併号より

 同社は、社員が希望しない限り、会社都合で転居を伴う転勤辞令を出さないことも制度化している。この制度を逆手にとる形で、社員の側から「札幌本社で働きたい」という希望を出し、東京事務所からの異動が実現したケースもあるという。さらには、勤務地と上司を選択できる制度を組み合わせ、札幌本社所属の社員が北海道にとどまったまま、東京事務所の上司のもとで働くことも可能。この場合、オンライン会議システムでのコミュニケーションや指導がメインになるという。田中社長は「今後も社員が働きやすい環境づくりに力を入れていきたい」と、さらなる「社員ファースト」に努める意向だ。

「自分のキャリアの責任は自分にある」と考え、自分の価値観に基づいて自分でキャリアを選択していく自律的・主体的なキャリア志向や、「仕事が全て」という価値観から「仕事は人生の一部」という価値観へのシフトも若い世代ほど顕在化している。

 そうした流れを背景に、大手企業を中心に導入が目立つのが入社後最初の配属部署や勤務地を確定する「初任配属確約」だ。入社するまでどこに配属されるか分からない不確実性や不安の解消に努めることで人材確保につなげる狙いがある。新卒者の動向に詳しいリクルート就職みらい研究所の栗田貴祥所長は「一律的な人事制度に合致する人だけを選んで採用すれば事足りる、という時代ではなくなりつつあります」と話す。

 とはいえ、日本の企業の多くはいまだに社員のキャリアは「会社が決めてあげる」もので、「個人はそれに従うもの」という慣習から抜け出せていない、とも栗田さんは指摘する。

 リクルートが人事部門担当者を対象に今年2月に実施した調査で、内定承諾前に配属先を確約することの課題として、「希望と合っていない時に入社辞退がある」といった懸念の声も寄せられた。これは何を意味するのか。こう回答した企業は、内定承諾前の配属先の確約を、「学生が希望する部署への配属」を前提とした採用選考ではなく、「企業の人員充足の観点での配属」と認識していることが浮かぶ。

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「下剋上」の動き加速