「本人の希望を聞く、という発想がそもそもなく、これまで会社主導の人事を展開してきた日本型企業ならではのバイアスが浮き彫りになった形です」(栗田さん)
「転勤ガチャ」や「配属ガチャ」という言葉に踊らされると、転勤や異動にネガティブなイメージしか抱けなくなる面も否めないが、もちろんマイナス面ばかりではない。栗田さんも「一概に個人の要望をそのまま聞き入れればいい、というわけでもない」と強調する。
その論拠の一つが、米スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱した「計画的偶発性理論」だ。この理論は「個人のキャリアの8割は予期しなかった偶発的な出来事によって決まる」とのデータを示した上で、キャリア形成を図る上で偶然の要素を計画的に採り入れることをすすめている。
「下剋上」の動き加速
この「偶然の要素」が会社からの異動の提案であるケースもままある、というわけだ。その点、中堅以上の世代は我が身を振り返り、「偶発性理論」を皮膚感覚で肯定できる人は少なくないだろう。一方で、そうした実体験に乏しい学生や若手に対してはより慎重なアプローチが求められる、と栗田さんは説く。
「初任配属確約は、まずは会社のメンバーになってもらうためには有効な制度だと思います。ただ、その後は会社が継続的に個人のキャリア形成をサポートする『キャリアコミュニケーション』が、長く会社に定着してもらうためには不可欠です」
働き方の多様化が進み、構造的な人手不足が深刻化する中、働き手が会社に対して優位な立場で権利を主張する「下剋上」ともいえる動きは今後さらに加速しそうだ。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2024年8月12日-19日合併号より抜粋