この調査結果を受け、アメリカ神経学会フェローのフィニー博士(※4)は、「これらの危険因子の完全なメカニズムについては、さらに調査する必要があるものの、この研究結果は、脳の身体的発達と健康を促進し、脳へのダメージを防ぎ、脳への刺激を高めて維持するという組み合わせによって、脳の健康と機能を助けうることを説明している。」と述べています。

最新のリスク軽減の報告

 2つ目にご紹介したいのは、2024年7月25日にネイチャー・メディシン誌(※5)に掲載された「帯状疱疹ワクチン(一般名:乾燥組換え帯状疱疹ワクチン、商品名:シングリックス)は認知症のリスクを軽減する可能性がある」という最新の調査報告です。

 帯状疱疹については、以前に「ズキズキ痛い帯状疱疹(※6)女性に多く、痛みが十年以上続くことも!?」(※6)と「コロナとの合併症で帯状疱疹増加『水ぶくれが突然我慢できない痛みに』その理由は?」(※7)で解説しました。50歳から70歳の人に多く見られる帯状疱疹ですが、若い世代でも発症する可能性のある疾患です。

 さて、その最新の調査報告によると、ゾスタバックス(弱毒生帯状疱疹ワクチン、2006年にアメリカで認可された帯状疱疹ワクチン)を接種した65歳以上の約10万人と、シングリックス(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン、2017年にアメリカで認可された帯状疱疹ワクチン)を接種した65歳以上の約10万人を比較したところ、帯状疱疹ワクチンの接種から6年以内に認知症と診断された確率は、シングリックスを接種した人の方が、ゾスタバックスを接種した人より17%低いことが分かったというのです。

 また、男女に分けて解析すると、ゾスタバックスを接種した女性と比較して、シングリックスを接種した女性はその後 6 年以内に認知症を発症するリスクが 22% 低く、シングリックスを接種した男性ではリスクが約 13% 低かったことも判明しました。

 さらに、シングリックスを接種した高齢者と、インフルエンザワクチン、およびジフテリア・百日咳(ぜき)・破傷風の混合ワクチンを接種した高齢者を比較したところ、シングリックスを接種した高齢者の認知症リスクは、インフルエンザワクチンを接種した人に比べて23%、混合ワクチンを接種した人に比べて28%、それぞれ低いことが明らかとなったのです。

 現時点では、あくまでも、帯状疱疹ワクチンを接種する目的は、帯状疱疹を予防するためです。さらなる調査が進み、帯状疱疹ワクチンが確実に認知症にリスク軽減に効果をもたらすと確信できる日が来ることを期待しつつ、定期的な運動を続け、健康的な体重を維持することから取り組みたいと思います。

【参照URL】

(※1)https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20240802_n02/

(※2)https://dot.asahi.com/articles/-/210876?page=1

(※3)https://www.thelancet.com/commissions/dementia-prevention-intervention-care

(※4)https://www.cnn.com/2024/07/31/health/dementia-childhood-risk-factors-study-wellness/index.html

(※5)https://www.nature.com/articles/s41591-024-03201-5

(※6)https://dot.asahi.com/articles/-/99357?page=1

(※7)https://dot.asahi.com/articles/-/14234?page=1

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山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

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