体操の男子団体総合決勝。逆転で金メダルを決めて、日の丸を手に歓喜する日本代表の選手たち(写真:ロイター/アフロ)
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 パリ五輪の体操男子団体で劇的な大逆転劇で金メダルを獲得した日本代表。なぜトップ中国と3点以上の差をひっくり返し、勝利を手にすることができたのか。AERA 2024年8月12日-19日合併号より。

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 20年前のアテネ大会の体操男子団体。「栄光への架橋」を決めて金メダルを獲得した冨田洋之は、私にこう話した。

「体を操ると書いて、体操です。自分の体、気持ちをしっかりと制御、操ってこその体操です」

 あれから20年。今度はパリで男子日本代表が最終種目の鉄棒で心と体を制御し、大逆転で金メダルをつかんだ。最後、重要だったのは心の準備だった。

 ラグビー日本代表のヘッドコーチを務めるエディー・ジョーンズ氏は常々こう話す。

「勝ち切る時には『心の準備』が必要なのです。絶対的な自信がない選手は『このままでは勝ってしまう』と不安になり、自滅します。そうならないためにも練習が必要なのです」

勝利目前に崩れる選手

 テニス、ゴルフ、あらゆる競技で勝利を目前にして崩れる選手を何度も見てきた。

 今回、5種目を終えて日本をリードしていた中国。3点以上の差が開き、最終種目の鉄棒でミスがなければ中国が勝っていたはずだった。ところが──。

 中国の2番手、蘇イ徳(イは火偏に偉のつくり、ソイトク)は乱れた。伸身トカチェフで落下。演技再開後のコールマンでは「早く鉄棒を持ちたい」という気持ちが腕を縮こまらせ、再び落下してしまう。実は昨年、ベルギーで行われた世界選手権で蘇はまったく同じ技で落下している。その苦い体験を、蘇はポジティブなものに変換できず、パリの大舞台で同じミスを犯してしまった。演技を終えて、チームメイトとは椅子4個分離れ、ひとり座る蘇の姿が痛々しかった。

 この2度の落下による減点は2。日本が逆転し、最終演技者の橋本大輝へとつないだ。今度は橋本にプレッシャーがかかる番だ。しかも2日前、団体予選では同じ鉄棒で着地が乱れ、連覇を狙っていた鉄棒の種目別決勝の進出を逃した。加えて団体決勝の当日も、2種目めのあん馬で落下。このミスを「すごく引きずっていました」と試合後に話すほど、橋本の演技は安定とは程遠かった。

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