チームスポーツ的要素
そして会場の視線だけではなく、世界の注目を集めての鉄棒、橋本は耐えた。演技の序盤、やや乱れる箇所があったものの、大きなミスにはしなかった。その後、ダイナミックな離れ技で会場を沸かせたあと、問題の着地の瞬間がやってくる。
ぴたり、決まった。得点は14.566。この得点で、日本は金メダルをほぼ手中にした。
改めて、今回の団体決勝では体操が繊細な競技であることを実感した。心の制御に加え、チームスポーツ的な要素が入ってくるからだ。本来、体操は個人競技である。しかし、団体戦は単に個人の得点の集積ではなく、演技が進むなかで「流れ」が生まれる。流れをつくるのは、代表選手が一緒に合宿生活を送るなかで、所属チームを超えて醸成される「共感力」である。
関係者によれば、今回の代表メンバーである主将の萱和磨、谷川航、岡慎之助、杉野正尭、そして橋本の5人は国内合宿の段階から積極的にコミュニケーションを図り、互いの共感力を高めていたという。だからこそ、あん馬で橋本が落下したあとも、5人は諦めなかった。それぞれの気持ちが離れていては、大逆転劇は起きなかっただろう。
男子団体は、1960年のローマ大会から76年のモントリオール大会まで5連覇、そしてアテネでの王座奪還、8年前は内村航平を擁しての戴冠。今回、「メイク・ニュー・ヒストリー」というテーマを掲げた5人は、パリで新たな金メダルコレクションを加えた。(スポーツジャーナリスト・生島淳)
※AERA 2024年8月12日-19日合併号