一般論としては、歌手やミュージシャンが姿を見せずに活動をするのは営業面で不利な要素になる。なぜなら、人間の顔や姿形というのは印象に残りやすいからだ。特に「顔」というのは最も情報量が多い部位である。
見た目と音楽を結びつけることで、人々はミュージシャンに対して積極的な興味を抱いたり、好意を持ったりする。視覚的な情報は音楽を楽しむ際に重要な役割を果たす。
しかし、顔を出して活動をすることにはデメリットもある。音楽の内容とは関係なく、見た目のことで世間からあれこれ言われることになるし、発表する歌や音楽が見た目のイメージに引きずられてしまうリスクもある。特に「顔」の印象は強いので、それが良くも悪くも音楽の評価に影響を与えてしまう。
また、顔を見せることでプライベートな場面で見知らぬ人に気付かれたりして、嫌な思いをすることもあるだろう。Adoの場合、メジャーデビューの時点で高校生だったということもあり、プライバシーを守ることを優先するのも理解できる。
顔出ししていないAdoの音楽を聴くとき、人は彼女の歌そのものを純粋に深く味わうことができる。見た目の情報が少ない分だけ、音楽そのものに没入できる。
さまざまな技巧を駆使した彼女の歌声は、それだけで十分な情報量があり、気持ちもこもっている。顔出しをしていなくても人を納得させるパフォーマンスができている。
ウタは成功例
また、容姿を見せないことで余分なイメージがつかないのがプラスに働くこともある。たとえば、彼女は映画『ONE PIECE FILM RED』にて、ウタという作中人物の歌唱キャストを担当した。Ado本人に見た目の印象がないので、この映画を見てウタの歌声を聴く受け手は、それをウタ本人のものとしてダイレクトに味わうことができた。
さらに言うと、Ado本人は顔こそ見せていないものの、パーソナルな部分を隠しているわけではないし、取材やメディア出演にも消極的ではない。