2日の東京株式市場で、日経平均株価が暴落した。終わり値ベースでは過去2番目の下げ幅の2216円安。3万5909円だった。新NISAを機に投資を始めた人は、市況のこの動きに冷静でいられなくなったかもしれない。ただ、投資歴50年以上の長期投資家の澤上篤人さんは、かねて最近の株式市場の活況ぶりについて、「実態経済とかけ離れている」だと危うさを感じていたという。投資初心者が今こそ、読みたい澤上さんの「見立て」をふたたび紹介する(この記事は5月16日に配信した内容の再掲載です。年齢、肩書などは配信時のままです)。
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3月21日、終値で4万815円をつけ史上最高値を更新した日経平均株価。現在は下落に転じているが、右肩上がりの基本トレンドに変化はあるのか。投資歴50年以上の長期投資家の澤上篤人さん(77)に聞いた。AERA 2024年5月20日号より。
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投資運用の世界に入って50年以上、1971年のニクソン・ショックからすべてを実体験してきました。その経験から申し上げるのですが、世界的に今ほど実体経済からかけ離れた、浮ついたマーケットは例がありません。これは続かない。私はいつ相場が大崩れして、株価が大暴落してもおかしくないと言い続けています。
まず挙げたいのはカネ余りを意味する「過剰流動性」です。約50年前の第1次石油危機以来、世界経済は危機に陥ると当局がマーケットにカネをつぎ込んで景気崩壊を防ぐ政策を取り続けてきました。「カネ余りはインフレに直結するので危険」という認識は2000年代初頭ごろまでは当局に残っていましたが、そのうち忘れ去られてしまいました。そうなるともう止まりません。08年のリーマン・ショック、20年代のコロナ禍でとてつもない巨額のカネがばらまかれたのはご承知の通りです。
加えて先進各国で年金制度が整備されるにつれて、1980年代ごろから「年金マネー」が一気に膨れ上がりました。世界最大となった運用マネーが株や債券市場に流れ込んできたのです。「過剰流動性」の上に乗っかる形で年金が相場を押し上げ続けました。
今すぐ市場から離れよ
さらにリーマン以降は「ゼロ金利」や「マイナス金利」が当たり前になり、経済から金利が消えました。「カネをばらまけば経済は成長する」というマネタリズムの考え方にも支えられ、金利のない世界が10年以上続きました。結果、今や全世界の借金、総債務は世界GDPの約360%にもなっています。しかも、このうち金利のない直近10年ちょっとで世界GDPの1年分が新たに積み上がりました。