矛盾したことをいうようだが、子どものための読書案内は、ものすごく大人向けである。なぜなら、作品の素晴らしさについて、饒舌すぎず、難解すぎず、必要最低限のことを懇切丁寧に書いてあるのだから、大人が読めば、当然その内容をちゃんと理解できるじゃないか。それでいて、本当に伝えたい核の部分は、大人向けと同じ熱量を持っている。子ども向けだからといってスルーしていては、勿体ない。
 本書もまた、大人こそ手に取るべき一冊である。30人の推薦人による「この一冊」は、小説やマンガ、学術書や思想書に至るまで、実にさまざまだ。角田光代(小説家)が佐野洋子のエッセイ集『問題があります』を紹介したかと思えば、上野千鶴子(社会学者)が『聖書』を紹介し、ホンマタカシ(写真家)が「なるべく役に立たない素晴らしい本をみつけて大切に読んでもらいたい」と語るそのすぐそばで、雨宮処凛(作家・活動家)が「人はきっと、正しく生きるためではなく、間違えるために生まれてきたのだ」と高らかに宣言する。「ほかの誰も薦めなかったとしても今のうちに読んでおくべき本」というコンセプトが、この愉快なバラバラ感を生み出している。
 わたしたちは、思いつくままにページをめくり、気になった本をチェックすればいい。というか、本はそっちのけで、書き手だけをチェックするのもオススメ。新たな本との出会いだけでなく、新たな書き手との出会いもある。それが本書の楽しいところだ。
 個人的には「わたしも若い頃にこの本と出会いたかった!」と後悔しているタイプの推薦文が、すごくいいと思った。他人の不幸は蜜の味、というが、他人の後悔もなかなかの美味である。好きな本について語りながら、過去の自分を思い出し、甘くて苦い後悔を噛みしめる……第一線で活躍する推薦人たちの繊細な部分を見せてもらえるというのは、なんだかとても贅沢だ。

週刊朝日 2016年2月26日号