当然、最も利益を生むのは販売だ。ところが、販売にかけている総時間は、1日の半分しかない。やらなくてもいい仕事をしているからで、会議や伝票書きなどが多い。その総コストを計算したら、70億円にもなる。当時の利益が40億円だったので、仕事のやり方を変えれば最大で110億円になる計算だ。

 そこで「販売に時間を割き、客が自分に関係ないと思う仕事はアルバイトでいい」「アルバイトでいい仕事はどの売り場も似ているから、集めてしまおう」という案をつくり、全国店長会議へ出す。

 さらに、奥田社長の次の指令で婦人用品雑貨の売り場をモデルに1年間、やってみた。すると接客時間が9割も改善した人も出て、半年で業績が上がる。

 説得力が出て、翌99年に改革を全店・全売り場へ導入した。ここで、明治大学の体育会バスケットボール部時代に流れ始めた山本良一さんの『源流』が、成功への推進力となる。

 全員に、直に、話す。

 山本さんが、何かを組織に浸透させるときのやり方だ。数人の幹部に話し、職場の部下に伝えさせ、売り場の人たちへ広げていく。そんな「伝言ゲーム」では、徹底させたいことがきちんと伝わらないし、ときに違った内容になってしまう。

 全国から店長、部課長、売り場リーダーらを次々に大阪府高槻市の研修所へ集め、営業改革が必要な理由と要点を説く。パートタイマーの代表も呼ぶ。朝は大阪市の本社へ出て、昼過ぎまで仕事をこなし、大阪駅から電車で高槻駅へいき、午後3時か4時に研修所に着く。

研修所に泊まり込み食堂で一杯やって覚えた顔1200人

 1日の研修の最後に立ち、夕食後もグループ議論へ参加して疑問に答える。食堂で一杯やりながらの夜もあり、週に3度は泊まり込む。これを4年間、続けた。すべて、自分でやった。4年たつと、約1200人の顔と名前を覚えていた。

 明大バスケットボール部で、2年生のときから全日本大学選手権を3連覇する。4年生のときは主将を務め、合宿所で毎日のように小ぶりのミーティングを重ねた。あれこれいろいろ話しても、みんなの心に留まらない。大事な点だけを「全員に、直に」と話す始まりだ。

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