妻に暴力を振るったのだ。妻は統合失調症を患っていて失敗したり近所とトラブルを起こすこともあった。するとカーッとなって妻を殴り、台所の包丁を取り出し「ぶっ殺すぞ」とすごんだ。そうした後、自己嫌悪に陥ったが、感情を抑えきれなかった、という。
「やめられない。父親もこういう気分だったのかと思います」
今年1月、妻ががんで亡くなった。市原さんは妻を自宅で介護しながら看取(みと)ったが、亡くなるまでの過程を間近で見てきて、「死」は大事なものだと気がついた。同時に父を許すことができ、こう思うようになった。
「父もつらかったのか、もっと生きたかったのか、言いたいことがあったのか……。父と会話をしたかった」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2024年8月5日号より抜粋