市原和彦さん(72)。酒を飲み母に暴力を振るう父を嫌っていたが、1月に亡くなった妻の「死」を通し、父を許せるようになったという(写真:野村昌二)

 妻に暴力を振るったのだ。妻は統合失調症を患っていて失敗したり近所とトラブルを起こすこともあった。するとカーッとなって妻を殴り、台所の包丁を取り出し「ぶっ殺すぞ」とすごんだ。そうした後、自己嫌悪に陥ったが、感情を抑えきれなかった、という。

「やめられない。父親もこういう気分だったのかと思います」

 今年1月、妻ががんで亡くなった。市原さんは妻を自宅で介護しながら看取(みと)ったが、亡くなるまでの過程を間近で見てきて、「死」は大事なものだと気がついた。同時に父を許すことができ、こう思うようになった。

「父もつらかったのか、もっと生きたかったのか、言いたいことがあったのか……。父と会話をしたかった」

(編集部・野村昌二)

AERA 2024年8月5日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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