とはいえ、「避暑地」の那須であっても最近の夏は、最高気温が30度前後になる日も珍しくない。昨年ようやく、エアコンが取り付けられたという。
先の市村さんは、その話を聞いて胸をなでおろした。
「ひとまず、ご体調にかかわるエアコンの工事だけでもなされたのであれば、よかった。まだご不便はあると思いますが、ほっとしました」
危険がなければできるだけあるがままで、という皇室の思いは、御用邸の様子にも表れている。
宮内庁によれば、昨年から天皇ご一家が利用されている附属邸の事務棟建物にニホンミツバチが居ついたことから、「蜂の巣に注意」と注意喚起する看板が建物のそばに設置された。同じ時期、他の場所にあったスズメバチの巣は、さすがに撤去されたという。
網戸補修に悩む長官
とはいえ、御用邸の「質素さ」に驚かされるのは、今回に限ったことではない。
平成の天皇ご一家に侍従として仕え、駐チュニジア、駐ラトビア特命全権大使などを歴任した中京大学の多賀敏行・客員教授も、侍従時代に那須御用邸の附属邸に滞在した経験がある。
多賀さんによれば、当時の鎌倉節・宮内庁長官も、御用邸の老朽化と補修費用に頭を悩ませていたのか、こうこぼしていたという。
「陛下が那須の附属邸にお泊りになる。御用邸には虫がたくさんいるので、網戸を取り替えたかったが、その費用を確保するのが非常に難しい。やむを得ず大蔵省(現・財務省)とやり取りした……」
宮内庁長官自らが大蔵省と交渉を行わざるをえなかった、といった口ぶりだったという。
那須御用邸といえば昨夏、愛子さまが生まれる前に、天皇陛下と雅子さまが敷地内にテントを張って寝袋で一晩を過ごしたというエピソードを、おふたりが明かしている。
「平らなようで少し斜めな斜面になっていて、寝袋に入ったまま転がって……」
そう陛下が明かすと、すぐに雅子さまが笑いながら、
「転がっていっちゃった」
と付け加え、周りは笑いに包まれた。
愛子さまが縁側で朝まで寝てしまったエピソードも、エアコンがない時期のことだった。
身の回りに不便なことは一つもないように思い出を語ってきた、陛下と雅子さま、そして愛子さま。そんなご一家のお人柄が伝わってくるようだ。
(AERA dot.編集部・永井貴子)