宮内庁によれば、耐震補強工事は本邸のみ、1998年に行われている。附属邸については耐震上の問題はないため、特に行われてはいない。
適宜、修繕工事は行われているが、地元の住民が心配していたのは湿気による傷みだ。
「湿度が高いこの地域では、木造の建物は他の地域よりも傷みが激しくなる。地元の人間の多くは心配しています」(市村さん)
老朽化した建物に対する不安の声が地元であがり、「那須嚶鳴会」が中心となって、2017年ごろから建て替えを求める署名運動が始まった。コロナ禍の期間をはさみ、昨年8月までに5万1千人を超える署名が集まったという。
しかし、地元自治体を通じて内々に相談を受けた宮内庁の職員は、申し訳ないといったふうに口ごもりながらも、「こうしたものは受け取ることができないのです」と答えたという。
ようやく設置されたエアコン
「那須嚶鳴会」の相談を受けた地元選出の佐藤勉・衆院議員は、住民の思いを宮内庁側に伝えたという。
「わかったのは、宮内庁が地元の住民の心配をむげにしているわけではない、ということです。お使いになる皇室の方々は、心配する住民の気持ちをありがたく受け取っておられるようです」
と、佐藤議員は話す。
「一方で、旧田母沢御用邸(栃木県日光市)が国の重要文化財に指定されたように、那須御用邸も由緒ある貴重な建造物です。おそらく老朽化した建物であってもなるべくそのままの形で大事になさりたい、という思いがあるようにも感じました」
建て替えを求める住民の気持ちは理解できるが、いまは皇室の思いを尊重するのがよいのではないか、と佐藤議員は感じたという。