
身元がわかっていても、引き取り手が見つからない遺骨が増えている。横須賀市では市民の尊厳を守るため、新しい取り組みを始めている。
【写真】「身寄りのない高齢者」を無縁仏にしない 横須賀市が始めた尊厳守る「取り組み」とは
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身元がわかっても引き取り手がいない
「今日も1柱ここに納められました……」
横須賀市地域福祉課終活支援センターの特別福祉専門官・北見万幸(かずゆき)さんが、そうつぶやきながら、記者を一時安置室に案内してくれた。
一時安置室内のスチール棚には約200体の骨壺がところ狭しと並ぶ。骨壷には粘着テープが貼られ、名前が書いてあった。身元不明の遺骨には番号が書かれているが、いつの日からか多くに「名前」が書かれるようになった。
遺体が発見された後、引き取り手が見つからない場合、横須賀市では公費で火葬にしてから、市役所内のこの一時安置室に2〜3年遺骨を保管する。その間、職員が戸籍謄本などを手がかりに親族を捜し、引き取りの依頼をする。1年間で1〜2柱、引き取り手が見つかることもあるそうだが、見つからなければ最後は郊外にある無縁納骨堂に納められるという。
「昔は番号だったのが、名前が書いてある骨壺が増えたのです。名前があるということは、身元はわかっているのに引き取り手がいないということ。生前の希望があったはずなのに、何年も弔われずにきてしまった。こうした遺骨を見るたびに、生きているうちに本人の死後の希望を行政が聞いておいたほうがいいのではないか、と思うようになったのです」(北見さん)
生きている間に死後の希望を
横須賀市は、生きている間に死後の希望を聞き取っておく「エンディングプラン・サポート事業」を2015年7月から開始した。対象は一人暮らしで身寄りがなく、経済的に余裕がない高齢者などで、市が葬儀や納骨先の希望を聞き取る。そのうえで、本人が葬儀社との間で契約書を交わし、約27万円(生活保護世帯は5万円)を事前に支払う。市は定期的に高齢者の自宅を訪問して見守り、死後も納骨まで見届けるというシステムだ。23年度末までに146人が登録し、72人をみとった。
これに加えて新たな取り組みもスタートしている。きっかけはいくつかの出来事だった。
