一時納骨堂で手を合わせる北見さん

「死亡の時 15万円しかありません」

 エンディングプラン・サポート事業がスタートした直後の8月、北見さんは独居で亡くなったある男性の自宅に行った。男性は15年1月に亡くなり、死後1時間ほどで発見されたという。枕元に勉強机があり、その上に置いてあった缶の中から手紙が出てきた。そこにはこう書かれていた。

「私死亡の時 15万円しかありません 火葬と無縁仏にしてもらえませんか 私を引き取る人がいません」

 男性は近所でも毎朝声を掛け合う仲間がいて、地域で孤立はしていなかった。

お墓の所在がわからない

 さらには、夫に先立たれ一人で暮らす女性が亡くなった後、お墓の所在地がわからないため、遠方に暮らす甥や姪も引き取ることができず、警察が「無縁納骨堂に入れてほしい」と、市役所に相談に来るケースも出てきた。

「親族をどうやって見つけて連絡をつけるのか、といった今後の課題が見えてきました。新しい登録制度を作っていかないと住民を守ることができなくなる」(北見さん)

 そこで、18年5月から新たにスタートしたのが、『わたしの終活登録(終活情報登録伝達事業)』だ。

「エンディングプラン・サポート事業の対象者は一人暮らしで頼れる親族がいない高齢者と限られていますが、『わたしの終活登録事業』は全横須賀市民が対象で、誰でも登録できます。障がいのある10代のお子さんも親御さんと一緒に登録しています」(同)

情報を登録して市がハブに

「わたしの終活登録」は、A3二つ折りサイズの紙に、登録項目を記入して市役所に登録をする。登録料は無料だ。

 本籍、緊急連絡先、所属のコミュニティー、かかりつけ医の連絡先、エンディングノートの保管場所、緩和・延命治療について、臓器提供の意思表示、葬儀、遺品整理などの生前契約先、遺言書の保管場所、お墓の所在地から、登録したい項目を選んで記入し、登録後の追加や削除も自由だ。

 24年7月18日現在、917人が登録し、警察などからの照会が増えているという。

「10項目すべて書き切らなくてもいいですし、まだ決めていないという人は、多くの人が選ぶ緊急連絡先、かかりつけ医、お墓の所在地の3つの記入から始めてほしい」と、北見さんは言う。

 エンディングノートや終活というと、「自分はまだ先」だと思う人も多いだろう。だが、新型コロナウイルスやけがで入院したとき、災害に見舞われた際などもしものときに、本人が会話できない状態に陥れば、家族がいても「身元不明」になる恐れがある。そうならないためにも、横須賀市では市役所が病院や警察、消防と家族をつなぐ“ハブ”のような役割を担っている。

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引き取り手のない遺骨にならないために