横須賀市の「わたしの終活登録」

緊急連絡先をスマホケースに

 横須賀市のような取り組みを行う自治体はまだ多くはないが、個人でできることはある。

 例えば、スマホのカバーや財布の中に、家族や兄弟姉妹など緊急時の連絡先を書いたメモを入れておけば、万が一、出先で倒れたときも家族につながりやすい。大切なのは緊急連絡先の確保と、第三者に伝えるツールだ。

 都内に住む50代の女性は、両親が他界してからエンディングノートを書き始めている。コロナ禍のときから、「コロナにかかって入院したら、病院から連絡が行くように」と、姉と甥の携帯番号を書いた紙を保険証の裏に貼り付けて、財布の中に入れて持ち歩いているという。

「60歳になったタイミングで任意後見制度の手続きをする予定で、甥が任意後見人になってくれることになっています。コロナ禍が収まって地方の出張が増えてきたので、旅先で倒れたときのことを想定して、姉と会ったときには『出先で何かあったときにはお願いします』と、いつも伝えています」(女性)

 だが、「もしも」を意識して自ら備える人ばかりではない。

 6月末、横須賀市の森崎地区で行われた「終活講座」には地域の高齢者26人が集まり、北見さんの解説に耳を傾けていた。会を主催した民生委員の山田悦子さんが言う。

「夫に先立たれて一人で暮らす女性が増えてきたので、お墓の場所を書いておくというのは身につまされました。ただ、ここに自発的に来て終活登録の書き方を学ぼうという人はいいのですが、一人暮らしの高齢者で緊急連絡先すら書いてくれない人もいます。その人をどのようにしてサポートしたらいいのか。孤立させないために地域で見守っています」

引き取り手のない遺骨にならないために

 終活登録事業には法的な強制力はなく、自発的な意思が必要だ。

 病院や施設に入るときの保証人や手続きなどを代行する民間業者は増えているが100万円単位の預かり金が必要なことも多い。

 身寄りがいない高齢者が直面する問題に、国も対策に乗り出した。今年度中に行政の手続きの代行など生前のことから、葬儀や納骨といった死後の対応まで継続的に支援する取り組みを一部の市町村で試行し、全国的な制度化を目指すという。

 それでも、こぼれ落ちる人は出てくるだろう。社会に生きた人々が「引き取り手のない遺骨」にならないために、どうすればいいか。取り組みは始まったばかりだ。

(ライター 村田くみ)