「一人で扇風機を持っている若者が嫌いだ。自分だけよければいいという感じで社会が関係ない。都知事選で石丸にイカれた人もそうなのだろう。彼らは権力を知らない。石丸は市長として権力を持っていた。それに抵抗するのは簡単ではない。ところが権力の存在を感じたことのない者は石丸に同化してしまう」 (2024年7月21日)

 思わず吹き出してしまった。石丸氏嫌いなあまりに、間違った方向に行きすぎである。案の定、「ハンディファンはウチワやセンスと同じ」と一瞬で「論破」されていたが、そういう「論破」を読みながらふと気が付いてしまった。私の中にも石丸氏がいるようなのである。もっと論破してくれー! とか思っている私がいるのである。だいたい都心でハンディファンを持っている多くは若い女性だ。韓国や東南アジアの外国人観光客も、けっこう持っている。佐高氏は街中ですれ違ったハンディファンを持つ若い女性たちに、なんだかただ苛ついたんじゃないの? それってミソジニー入ってるよね、そんなことを「イヤーな感じで一瞬で論破してくれ」とか思う私がいるのであった。暑いから?  SNSの見すぎで性格が歪んじゃったかしら?

 今回の石丸氏への投票行動にどう反応していいのか、多くの人がまだショックを引きずっているのかもしれない。でも、リベラルで立派な論をもっともらしく語るエリートよりも、卑近な方法であっても、権威的な正義を木っ端みじんに論破してくれる新しいエリートにシンパシーを感じる若い男性が圧倒的に増えているという事実、そしてそういう新しいエリートが、日本の政治の顔になりつつある現実を私たちは生きているのだ。

「反権力」の象徴だったかつてのリベラルが何らかの権威になってしまい、その言葉があまりにも人々に届かなくなっていることも、受けとめなければいけない。石丸氏的なものが闘ったのは、既存の権力だったのと同時に、蓮舫さん陣営があげた「反権力」を謳う「正しい言説の権威」に対してだったのだと気が付かされる。それよりも、もっとスカッとする俺たちの力、そんなものを人々は欲しがっている。そしてそれは私の中にも危うくあるものなのかもしれないのだ。

 石丸氏と斎藤氏の共通点、などという検索予測も、そんな現実を生きる私たちの困惑の表象なのかもしれない。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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