2022年3月から運用が始まった「東京都ドクターヘリ」=都提供
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 小池百合子・東京都知事が主導して2022年に導入した東京都ドクターヘリ事業。「都民の命を守るべく導入された事業は、いまや『負の遺産』」という週刊文春の報道を受け、都の担当者がAERA.dotの取材に応じた。「医療現場で奮闘する人たちの気持ちを踏みにじり、誤解を与える内容」で、「実情」は異なるという。記事が「ムダ遣い」と切り捨てた、高キャンセル率の理由を明かした。

【写真はこちら】東京都ドクターヘリが訓練を行う様子

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「ドクターヘリによって都民の命が救われているという事実があります。あの記事に書かれているような『負の遺産』になど、まったくなっていません」

 東京都保健医療局の担当者は真剣な表情でこう切り出した。

「キャンセル率の高さ」が示すもの

 あの記事とは、6月6日発売の週刊文春の「小池百合子(71)の公約 『ドクターヘリ』で都民の血税2.7億円ムダ遣い」のこと。ドクターヘリ事業について、「異常なキャンセル率の高さ」と「運航業者」の2点から問題提起した。

 記事では、全日本航空事業連合会が作成した「2023年度ドクターヘリ事業運航実績」のデータを引用し、キャンセル率を割り出している。

“都のドクターヘリの運航回数1360回のうち、患者を運んだ回数は306回、患者を運ばずに戻ってきたキャンセルの回数は1054回だという。計算するとキャンセル率は77%、実に約8割となっている”(週刊文春)。近隣の埼玉県は10.7%、千葉県は27.9%で、東京都を除いた全国平均は18%とし、“東京都の数字がいかに異常であるかが判る”(同)。

 担当者はこう憤る。

「『飛べば飛ぶほど儲かる』など、悪意のある見出しがつけられている。消防指令室の要請で飛ぶヘリなので、事業者が勝手に飛ぶということはありえない」

 取材を進めると、「キャンセル率の高さ」の背景にある、別の実態が見えてきた。

東京都ドクターヘリは、乗せてから最短10分ほどで患者に対して医療介入が始められる。写真は訓練の様子=都提供

覚知要請と接触要請の違い

 ドクターヘリは、医師と看護師を救急現場に運び、機内で治療を開始するとともに、高度な医療機関へ患者を搬送する航空機だ。

 東京都には現在、2種類のドクターヘリが存在する。2007年にスタートし、東京消防庁が管轄する「東京型ドクターヘリ」(主に伊豆諸島で運用)と、2022年にスタートした保健医療局管轄の「東京都ドクターヘリ」(主に多摩地域で運用)だ。

 キャンセル率でみると、東京型ドクターヘリはほぼゼロなのに対して、東京都ドクターヘリは約8割と、確かに大きな開きがある。だが、これは、運用法の違いにより当然、生じる差だという。

 ドクターヘリの出動要請には大きく分けて「覚知要請」「接触後要請」の2種類がある。

「覚知要請」は、119番通報の内容によって、消防がただちにドクターヘリを要請する。統一した基準で要請が行えるよう、「高いところから人が転落した」「人が突然倒れた」などの内容(キーワード)が通報に含まれていた場合、消防はドクターヘリの出動を要請する。

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救急救命に「2分で出動」の重さ