救急車は公園や河川敷、学校の校庭などのドクターヘリが着陸するランデブーポイントに患者を運び、ヘリに引き継ぐ。写真は訓練の様子=都提供

日本一早い都のヘリ

 東京都ドクターヘリは、ほとんどが「覚知要請」で運用されている。

「『道で突然人が倒れて意識がない』などの人命にかかわるような救急要請があったときは、いち早く患者さんに医師が接触することを目標にドクターヘリを飛ばします」(担当者)

 ヘリの出動要請と同時に、消防指令室は救急現場に近い消防署に救急車の出動を指令。現場に到着した救急車は公園や河川敷、学校の校庭などのドクターヘリが着陸するランデブーポイントに患者を運び、ヘリに引き継ぐ。だが、出動したヘリがこの途中でキャンセルされるケースがある。

「現場に到着した救急隊長が傷病者を観察し、軽症や中等症でヘリでの搬送の必要がないと判断した場合、医療資源を他の重症者に割り当てるため、キャンセルします」(同)

 一方、「接触後要請」は救急車が患者のもとに到着し、救急隊員や救急救命士が観察を行い、患者の状態が重篤で早期の医療介入が必要と判断した場合、ドクターヘリを要請する。

 東京型ドクターヘリは、主に伊豆諸島の患者を都市部の病院に搬送する際に使用されているが、「島にいる医師が患者の容体を判断して消防庁に入院の要請をかけます。そのため、ヘリが飛び立ってからキャンセルになることはほとんどありません」(同)。

「覚知要請」で運用すれば、キャンセル率が高くなることは都も十分認識している。

救急救命「2分で出動」の重さ

 さて、ドクターヘリを考えるうえで、もうひとつの重要な要素がある。「時間」だ。

 覚知要請と接触後要請では、119番通報があってからヘリを要請するまでの時間に大きな差が生じる。東海大学医学部の総合診療学系救命救急医学が2018年に公表した「ドクターヘリの課題に関する研究」によると、覚知要請の場合、ヘリ出動要請までの中央値は5分、接触後要請の場合は17分だ。

 多くの自治体では、覚知要請と接触後要請を組み合わせたドクターヘリの出動要請基準を設けている。ただ、119番通報からヘリを要請するまでの時間は全国平均13.9分(2022年度実績/日本航空医療学会資料から)であることから、実際の運用のほとんどは接触後要請と推定される。

 ほとんどが覚知要請で運用される東京都ドクターヘリの場合、これが「2分」とずば抜けて早い。119番通報からのタイムラグはほとんどないといっていいだろう。

 一刻を争う救急救命の現場で、この時間の違いは大きい。

「例えば、心臓停止の場合、治療開始が1分遅ければ死亡率が10%上昇するといわれています。ドクターヘリの現場は、患者に接触するまでの時間を1分、2分でも短縮しようと日々努力しています」(杏林大学病院高度救命救急センターの担当医師)

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