東京都ドクターヘリは小型の機体で主に多摩地域で運用されている=都提供

大動脈破裂の男性を迅速に救命

 東京都ドクターヘリが投入されるのは、救急車による搬送よりヘリのほうが病院に短時間で到着できるなど、医療行為が早く始められる多摩地域などだ。例えば、奥多摩町で発生した患者を救急車で搬送すると一番近い救命救急センターまででも約1時間かかる。一方、ドクターヘリであれば、乗せてから最短10分ほどで患者に対して医療介入が始められる。

 こんなケースがあった。

 多摩地域の公共施設で、ある80代の男性が腹部を押さえて倒れた。救急隊が現場に到着したときには、血圧が測定不能なほど低下していた。その23分後、患者はドクターヘリに搭乗した医師に引き継がれ、機内の超音波検査によって腹部の大動脈が破裂したと推定され、応急処置が施された。その情報は杏林大学病院高度救命救急センターに伝達され、ヘリの到着と同時に所見に沿った治療が開始された。緊急手術後の経過は良好で、19日目、自ら歩いて退院した。

東京都保健医療局医療政策部の江口耕一救急災害医療課長(左)と榎本光宏医療政策課長

「キャンセル率」だけを下げても

 接触後要請で運用すれば、確かにキャンセル率は下がるに違いない。ただ、救命率の低下や後遺症の増加を招く恐れがある。

 全国的にみれば、救急車の過剰利用が社会問題化し、条件付きで選定療養費の請求に乗り出した病院がある。ドクターヘリの運航にかかる費用は、NPO救急ヘリ病院ネットワークがまとめた「ドクターヘリ運航費用の負担の多様化に関する有識者懇談会 報告書」(2015年)によると、1飛行あたりおおむね50万円(年間400回飛行の場合)だという。

 都の担当者たちは一刻も早い人命救助のために尽力してきた。年間300人を超える患者を医療につなげた東京都ドクターヘリを「ムダ」と切り捨ててよいのか。

「キャンセル率は低いに越したことはない」としたうえで、都の担当者はこう続ける。

「ドクターヘリを導入した一番の目的は人の命を救うことでした。東京都ドクターヘリは、人命を最優先して運用されているのです。そのことを多くの人に知ってほしい」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

東京都保健医療局総務部の田村陽子広報担当課長(左)と医療政策部救急災害医療課の石川翔平課長代理